2018/07/15 改訂版 「『あなたの悩み、分かるわ』詐欺に気を付けろ」「周りの人をカウンセラーにしない」「人生なんて相談しても仕方がないことが多い」

映画『マトリックス』が本当に伝えたいこと ~君は心の囚人 / What’s is MATRIX 英語で読み解く

映画『マトリックス』が本当に伝えたいこと ~君は心の囚人 / What’s is MATRIX 英語で読み解く
仮想現実のサイバーアクションで知られるが、本質は心と世界の関わりをテーマにした哲学的な作品である。私たちが「自分」や「世界」と捉えているものは、自身の思い込みが作り出したイメージに過ぎず、心を解き放てば、我々は空を飛ぶことだってできる。You are the prisoner of you mind (君は君の心の囚人)なのだ。難解とされるMATRIXも、オリジナル(英語)の台詞を通せば概念を理解しやすい。当サイトでは画像付きで重要な台詞を紹介しながら作品のメッセージを読み解く。見せ場の動画も紹介。

『マトリックス』が最初で最後の映像革命――というと、「ちょっと待て! AVATARはどうなる? スターウォーズとジョージ・ルーカスは? ロバート・デ・ニーロやアル・パチーノの名演は革命に入らないのか」と怒り出す人もあるかもしれない。

だが、1970年代から、ほぼ毎日TVロードショーに釘付けになり、休日はレンタルビデオ三昧、映画館にも一人で出掛ける洋画ファンである私に言わせれば、「マトリックスの前にマトリックスなく、マトリックスの後にマトリックスなし」というほど斬新な作品である。(ただしウォシャウスキー監督に多大な影響を与えた『攻殻機動隊』は別格)

第一に、日本のアニメにインスピレーションを得たといわれる、独特のカメラワーク。

第二に、仮想現実や潜在意識を取り入れた、精神世界的な脚本。

第三に、従来のマッチョなイメージ(アーノルド・シュワルツネッガーやブルース・ウィリスなど)と異なる、繊細なヒーロー。

それまでSFアクションといえば、スターウォーズやスタートレックのように、いかした宇宙船が飛び回り、恐ろしい異星人や絶体絶命の危機を描いた『外的宇宙』が舞台だったが、MATRIXは従来のSFと全く異なる作風で、人間の内的世界にフォーカスしている。作中に描かれる能力は、バビル二世の超能力やヨーダの神的な能力と異なり、誰もが陥る心の罠とそれを超越する意識改革の賜だ。いわば、天性に授かった筋力や透視力ではなく、内的な気付きと思い込みの突破こそが、人間にとって本物の超能力だと説いているのである。
喩えるなら、マーフィー 人生は思うように変えられる―ここで無理と考えるか、考えないかで… (知的生きかた文庫)みたいなもの。

自分はブスだ、バカだ、誰にも相手にされない落ちこぼれだ、、、と思い続けていると、見た目も行動もそれに従うし、人生の結果もそうなっていく。

逆に、美醜や能力によらず、希望や意欲、思いやりに長けておれば、見た目も生き生きし、人生も好転していく。

あなたが駄目なのではない、自分は駄目だと思う、その気持ちが、あなたを駄目人間にしているのだ、という、デール・カーネギーな世界観をアニメチックな映像とコンピュータ世界の中に描いたのが本作で、何が新しいかといえば、それまでマニアックな分野だった『精神世界』を大衆好みのアクション映画に仕上げた技術と脚本なのだ。(攻殻機動隊も大衆向けではあるが、随所に押井節が塗り込められており、日本のアニメファンでないと素直に頷けない部分も多いので)

では、なぜ、マトリックスの後にマトリックスなしかと問われたら、この後、脳髄がしびれるような映像革命は起きてないからだ。

AVATARの3Dや、IMAXなど、「すごい映像」は続々と登場しているが、どちらかといえば、『青をよりいっそう青く』した感じで、新感覚ではない。

ところが、『マトリックス』の Dodge this(これでも食らえ)の動きは、今でこそよくある演出だが、1999年当時は完全に新しく、刺激的だった。日本のアニメファンにとっては「あー、真似してるぅ」だが、実写映画に取り入れられたのは、この作品が本当に初めてだったのだ。

見て楽しく、世界観を噛みしめても楽しい、空前絶後の傑作『マトリックス』。

モフィアスがネオに言う「You are the prisnor of your mind」「Free your mind」は、思い込みに囚われた、すべての現代人に捧げる言葉である。

記:2017/12/08

映画『マトリックス』について

※ 初稿:2008年12月3日

昼間は冴えないぼんくら会社員、裏の顔は「ネオ」の名で知られる天才ハッカー、トーマス・アンダーソンは、伝説のサイバー・ヒーロー「モフィアス」から「You are the One.」であると告げられる。今、君が生きている世界はコンピューターの作り出した仮想現実であり、実体はMATRIXと呼ばれる機械の中に眠っていると……。

日本のアニメ(押井守の「攻殻機動隊」が有名)にインスパイアされて制作された、ウォシャウスキー兄弟監督のSFサイバー・アクション。
特に、スローモーションを駆使したアニメチックな映像は、その後のハリウッド映画に多大な影響を与え、「マトリックス前」「マトリックス後」なる言葉もあるくらい。
巷では「オタク映画の極致」だの、「何が言いたいのかサッパリ分からん」という批判もあるが、アメリカのニューソート哲学を少しでもかじっていれば、この作品の真のメッセージが理解できるはず。SFではなく哲学として見て欲しい、20世紀を代表するSFアクションの傑作だ。

この作品が誤解されやすいのは、モフィアスの言う「The One」が「救世主」と翻訳され、人間VSコンピュータの戦闘ものと解釈されやすいからだと思う。
「One」はあくまで “One=「ある一つのもの」を表す代名詞” であり、それが意味するところは、囚われ人に意識革命をもたらすもの、モフィアスの「探し求める人」、ヒロイン・トリニティが「恋するであろう相手」、大いなる意志に選ばれた「唯一の存在」、等々、いろんな含みがある。
救世主と訳せば、勧善懲悪のヒーローみたいなイメージだが、ネオは決して超人的な英雄ではなく、物語における一つの『象徴』なのだ。

確かに、この作品は、エージェントと呼ばれる背広姿の悪役と格闘したり、ヘリコプターが高層ビルに激突したり、派手なアクションが多い。
「仮想現実」とか「コンピュータによる支配」といった設定も、いかにもSFチックで、それだけで敬遠する人もあるだろう。

だが、本作の核は、「君の心が現実を作り出す」というアメリカのニューソート的なメッセージである。

モフィアスが目覚める前のネオに言う、「You are the prison of your mind(君は、君の心の囚人)」というセリフが全てを物語っている。

MATRIXの世界では、人間に代わって地上を支配したコンピュータが、永続的なエネルギーを得る為に人間を「生体電池」として管理する。
全ての人間は人工子宮の中で製造され、赤ん坊になると、生体維持装置のチューブや電気プラグに繋がれ、カプセルに閉じ込められる。
コンピュータは、人間の脳の刺激に応じて「仮想現実」を作りだし、人間があたかも『1999年の社会を生きている』かのような意識に陥らせる。
そして、人間は自分がプラグに繋がれていることも、コンピュータの作りだした仮想現実に生きていることにも気付くことなく、カプセルの中で一生を終えるのである。

これは私たちの現実社会に置き換えても、十分に通じる話ではないだろうか。

たとえば、あなたは自分が冴えない会社員だと思っている。朝から晩まで上司に監視され、退屈なペーパーワークをやらされている。

だが、それは本当に現実だろうか。

あなたが会社員であることも、『山田太郎という名の日本人』と認識していることも、コンピュータがあなたの脳に植え付けたイメージだとしたら?

あるいは、あなた自身が頑なに「そうだ」と思い込んでいるだけで、本当のあなた自身は、もっと伸びやかで、才能に恵まれた、強い人間だとしたら?

MATRIXの罠はここにある。

人間がちらとでも自分のことを「俺は弱い。万年平社員で他より劣る」と意識すれば、コンピュータはそれに応じた外見や行動を脳に命じ、あなたもそれに従うようになる。

コンピュータでなくても、あなたの潜在意識が「俺は惰弱な平社員」と認識すれば、あなたは一生そのイメージにとらわれ、惰弱な平社員から抜け出すことができないだろう。

いわば、MATRIXは、潜在意識の具象だ。『あなたの思う世界』が、そのまま『あなたの生きる現実』になる。

作中では、トレーニングシステムの作りだした仮想現実の中で、モフィアスがビルからビルへひらりと飛び移る場面があるが、それはまさに思い込みからの解放=Free your mindに他ならない。

あなたの行動と結果を支配するものはコンピュータでもMATRIXでもなく、あなた自身の潜在意識――飛べるわけがない、落ちれば死ぬ――という恐れ、不安、疑念、思い込みなのだ。

映画のラスト、自分が『The One』であることを確信し、最強のパワーを手に入れたネオは、いまだ多くの人々が囚われているMATRIXの仮想現実の中で、まるでスーパーマンのように空に舞い上がる。

Free Your Mind.

君が心の奥底に抱く「思い込み」から自由になれば、君は空だって飛べるんだ。

What is the MATRIX ? 映画『マトリックス』を英語のセリフで読み解く

マトリックスは、英語字幕の方が理解しやすい。

たとえば、主人公ネオが『The One』であるという表現。上述のように、『One』には、「唯一無二の」「まさにそのもの」「選ばれた」「ある一つの」など、様々な意味がある。
救世主と訳してしまうと、人間の潜在意識を描いた本作が、たちまち宗教まがいのSFヒーローものと化してしまう。

『mind』も同様だ。日本語では『心』と訳されているが、mind には body (肉体) という対義語があり、これを理解しないと、モフィアスの言う Free your mind が、思い込みからの解放であると同時に、MATIRXというコンピュータシステムからの離脱を意味することに気付かない。

英語にはダブルミーニング(一つの単語が様々なニュアンスを有する)が多く、MATRIXに限らず、ハリウッド映画の台詞には様々な意味が込められている。

何度も鑑賞して、粗筋を覚えたら、次は英語の台詞に親しんで欲しい。

本作は比較的平易な英語が使われているので、MATRIXの世界が一気に広がるはずだ。

*

物語は、マシーン(機械社会)と戦い続ける女性士官トリニティと、後に裏切り者となるレジスタンスのサイファのオンライン通話から始まる。
そこで語られるのは、ある男の存在。
サイファのトリニティに対する、「You like him, don’t you? You like watching him.(彼に惚れてるんだろう、見ているのが好きだ)」という冷やかしの言葉から、レジスタンスがずっと以前から「彼」の動向に注目(watching)していること、そして彼に惹かれつつあるトリニティの感情が見て取れる。

Morpheus believes he is the One.
モフィアスは彼こそが「The One」だと信じているわ。

トリニティの答えに、話の核となる「The One」という言葉が登場する。
その意味するところは、「モフィアスが探し求めてきたもの」「マシーンに対抗する唯一の存在」「選ばれた一人の男」などなど奥が深い。
この「The One」は、いわば物語のシンボルとも言うべき言葉である。

続いて、パソコンに向かうトリニティの映像に切り替わる。
緑がかった映像は、これが「MATRIXの中」であることを意味するのだが、この時点ではまだ気付かない。

トリニティを囲む警官、そして車から降り立つ黒ずくめのエージェント。
追い詰められたトリニティは、ビルからビルへジャンプするという離れ業で窮地を脱する。

一方、コンピューター機器に囲まれて、うたた寝する『Neo』。
彼のモニターには、伝説のハッカーとして追跡されるモフィアスの新聞記事が映し出されている。

そんな彼のパソコンに突如として打ち出される文字。

マトリックス

Wake up, Neo. The MATRIX has you.

直訳すれば「起きろ、ネオ」だが、この「Wake up」は精神的覚醒を呼びかけるものである。
MATRIXの罠に気付き、自分が何者であるかを覚れという、モフィアスからのメッセージだ。
ここに登場する「has」は、支配、所有、束縛といった意味を想起させると同時に、黒ずくめのエージェントがすでに彼の存在を察知し、逮捕→抹殺への動きを見せていることを示唆している。
この後、ネオの元に、地下活動グループがやって来る。彼らはネオにハッキングを依頼していたのだ。
ネオは報酬を受け取ると、彼らに問いかける。
「You ever have that feeling where you’re not sure if you’re awake or still dreaming?
(起きているのか、まだ眠っているのか、自分の存在が現実ではないような、奇妙な感じを体験したことがないか?)

するとグループのボスであるChoiは次のように答える。

「It just sounds like you need to unplug,man」
(たまにはプラグを抜いた方がいいぜ)

要はコンピュータ(ネット)のやり過ぎで、頭がイカレちまったんだろう、みたいな揶揄だ。

マトリックス

この『unplug』が真相への伏線となっている。

先に結論を言ってしまえば、人間はみなコンピューターのプラグに繋がれて、カプセルの中で眠っている。
プラグを介して脳に伝えられるMATRIXの仮想現実を『現実』と信じ、プラグに繋がれたまま一生を終わるのである。

『unplug』というのは、人間の脳(意識)をに繋がれたコンピューター・プログラム『MATRIX』からの離脱、すなわち「精神の自由」を意味している。
Choiの「プラグを抜くことが必要だ」というジョークは、後の展開への見事な伏線になっているのである。(もちろんChoiは真実を知らずに言っている)

そうして、ネオは、漠然とした疑問を抱えながら一度はエージェントに拘束されるが、トリニティらによって解放され、モフィアスの元に導かれる。
戸惑うネオにモフィアスは問いかける。

「Do you believe in fate, Neo?(君は運命を信じるか)」

マトリックス

するとネオは答える。
「I don’t like the idea that I’m not in control of my life」
(自分の人生が支配されているような考えは好きじゃない)

「君が言いたいことは分かる。では、聞かせてくれ。何故、オレの所に来た?」

それに続くモフィアスの言葉。

You’re here because you know something.
君は「何か」を知って、ここに来た。

What you know you can’t explain.
君の知る「何か」について、君は説明することが出来ない。

But you feel it.
だが、感じている。

You’ve felt it your entire life.
自分の全人生において、それを感じてきた。

That there’s something wrong with the world.
この世界(ネオが現実と認識している世界)は何か間違っている、と。

You don’t know what it is but it’s there, like a splinter in your mind driving you mad.
君はそれが「何であるか」知らない、だが、それは確かに存在する、そして君の心の中に棘のように突き刺さり、心を惑わせる。

It is this feeling that has brought you to me.
その奇妙な感覚が、君をオレの所に導いた。

Do you know what I’m talking about?
オレが何について話しているか、分かっているな?

ネオが常に心に感じてきた「somthing wrong」――それが『The Matirix』という言葉で表される。

マトリックス

マトリックス

モフィアスは言う。

The MATRIX is everywhere.
マトリックスは至る所に存在する。

It is all around us, even now in this very room.
我々の周り、今、この瞬間、この部屋の中にさえ。

You can see it when you look out your window or when you turn on your television.
君が窓の外を見つめ、テレビを点ける時も、君はそれ(マトリックス)を目にすることができる。

You can feel it when you go to work, when you go to church, when you pay your taxes.
通勤し、教会に行くときも、税金を払う時も、君はそれを感じることができる。

It is the world that has been pulled over your eyes to blind you from the truth.
マトリックスとは、君の目を真実から遠ざけ、盲目にさせてきた世界なのだ。

マトリックス

「What truth?(真実とは)」
ネオが問いかける。

That you are a slave, Neo.
君は奴隷なのだ、ネオ。

Like everyone else you were born into bondage, born into a prison that you cannot smell or taste or touch.
他の者がそうであるように、君もまた囚われの身に産まれ、君が嗅いだり、味わったり、触れたりすることのできない刑務所の中に産み落とされた。

A prison for your mind.
「心」を支配する刑務所だ。

マトリックス

ここで言われる『prison』は、直訳すれば刑務所、拘置所といった意味であるが、「囚われの場所」と解釈した方が分かりやすい。
人間のmind(心)を支配しているのはMATRIXに違いないが、見方を変えれば、「これが現実」と思い込んでいる「自分自身」に他ならないからだ。
モフィアスの言う『prison』の意味が正しく理解できれば、物語後半、なぜネオが「心を解き放つ」ことで超人的な能力を身に付けるに至ったかというに納得がいく。
肉体をプラグで拘束し、脳をプログラムで支配するMATRIXは、人間にとって「憎むべき存在」だが、そのカラクリに気付かず、MATRIXが見せる世界を「現実」と思い込んで支配されているのは、他ならぬ「自分自身」なのである。

マトリックス

かくしてネオは、モフィアスの手引きにより培養液の中で目覚め、『真実』を知る。
彼が現実と信じて生きてきた世界は、MATRIXが彼の脳に見せていたコンピュータプログラムの世界であり、実際には、人間は全てこのようなカプセルに閉じ込められ、プラグに繋がれて、マシーンにmind(心)もbody(肉体)も支配されている。

これを我々の日常に置き換えれば、人はみな潜在意識に左右される『心の囚人』といえるだろう。

unplugされ、培養液のカプセルから救出されたネオは、モフィアスをリーダーとするレジスタンスの船『ネブカドネザル』に迎えられる。
寝台に横たわるネオは夢うつつにモフィアスに問いかける。

Neo: Am I dead? (僕は死んだのか)
Morpheus: Far from it.

「Far from it(死よりはるかに遠いところ)」、つまりunplugすることで「本物の生命を得た」という訳だ。

MATRIXから離脱したネオは、さらに心を解き放つ為のトレーニングを受ける。

これはレジスタンスが独自に開発した、トレーニング・プログラムの一環だ。

現実には坊主頭で灰色のボロ服を着ているはずのネオが、仮想現実の中では長い黒髪のお洒落な青年になっている。

マトリックス

それについて、モフィアスは次のように解説する。

Your appearance now is what we call residual self image.
今、ここに現れた君の姿は、我々が剰余のセルフイメージと呼んでいるものだ。

It is the mental projection of your digital self.
これはデジタル世界における、君の心が映し出したセルフイメージだ。

「residual」というのは、「残りの」「計算できない」「誤差」といった意味をもつ数学用語である。
つまり「コンピューターの理論を超えたappearance」、自身のもつセルフイメージがデジタル化され、具現したわけだ。
たとえば、「自分は長身のハンサムな男」というセルフイメージを持っていると、それがそのままデジタルの世界にも投影される。
プログラムの中に現れた「ネオの姿(黒い長髪)」は、ネオの自分自身に対するイメージであり、もしネオが「自分は金髪碧眼で、筋肉質の大男である」というセルフイメージを持っていれば、そのように投影される。
MATRIXは理論通りに動くコンピューター・プログラムだが、そこには少なからず「その人自身の思い込み=residual(計算できない、誤差)」が反映される。
それはすなわち、「人間の想念が現実を作り出す」ということを示唆している。

では、今、自分の見ているものが現実ではなく、脳の描き出すイメージだとしたら、「現実」は一体どこにあるのか。
ネオは問いかける。

Neo: This, this isn’t real ?
これは現実じゃないのか?

Morpheus: What is real.
現実とは何だ。

How do you define real?
君はどうやって現実とそうでないものを見分けるのだ?

If you’re talking about what you can feel, what you can smell, what you can taste and see, then real is simply electrical signals interpreted by your brain.
君が感じるもの、匂うもの、味わうもの、見るもの、それを「現実」と言うなら、現実とは、君の脳から発せられた単純な電気信号に過ぎない。

マトリックス

ここにMATRIXの本質がある。

我々人間が「現実」として認識しているもの――目に映るもの、匂い、味、音、肌の感触――全ては、生理学的に言えば、「脳のシグナル」によって形作られるものである。

人間の意識=脳のシグナル、といっても過言ではない。

ということは、このbody(肉体)さえも、現実には存在せず、mind(心)が作りだしたイメージかもしれない。

自分の手足、鏡に映る顔、味噌汁の匂い、スピーカーから流れる音楽……それは本当に実在するのだろうか?

あなたの脳が「そうだ」と思い込んでいるだけで、実体はそこには無いのではないか?

あなたは「赤い花」を見て、「赤色」だと思う。

だが、それが本当に「赤色」か否か、我々はどうやって見分けるのか。

Aさんの目には鮮やかな赤に見えても、Bさんの目には紫がかった赤に映っているかもしれない。

あなたが「赤」と認識する赤色は、『絶対的な赤』ではなく、そもそも、世界のどこにも、絶対的な赤など存在しないのだ。

なぜなら、一人一人が認識している赤色は、個人の感覚、すなわち脳のシグナルによって大きく異なるからである。

そして、その脳のシグナルを乗っ取れば、コンピュータは人間に完璧な夢を見せることができる。

お前が生きているのは西暦1999年のアメリカ社会で、冴えない会社員だと思い込ませることができる。

肉体はプラグに繋がれ、カプセルに閉じ込められても、死ぬまで気付くことはない。

モフィアスは言う。

What is the MATRIX?
マトリックスとは何か?

Control.
支配。

The MATRIX is a computer generated dream world, built to keep us under control in order to change a human being into this(battery).
マトリックスとは、人類を生体電池として支配するために作り出された、コンピューターの描く夢の世界なのだ。

マトリックス

モフィアスの言うことがにわかに信じられず、拒否反応を起こして嘔吐するネオ。
あまりのショックに力なく横たわるネオにモフィアスは言う。

マトリックス

ここでモフィアスのキャラクターを象徴する『belive(信じる)』という言葉が登場する。
モフィアスは、レジスタンスの霊的指導者『オラクル(神託)』から、「お前はThe Oneを見つけ出す。そして人間とマシーンの戦いにも終止符が打たれるだろう」というお告げを受けていた。モフィアスはひたすら信じることによってレジスタンスを統率し、自分自身を支えてきたのである。
傍から見れば狂信的、何の確証もない「お告げ」にすがりついて猛進するcrazyな男(実際に仲間からそう言われている)だ。
またネオも最初はそのように思っていた。

だが、この『belive』こそ、自身を変革し、未知なる力を引き出す鍵に他ならない。
モフィアスは、コンピューター・シュミレーションの中で、鳥のように超高層ビルを飛んでみせる。
本作メッセージである「心を解き放て」という言葉と共に。
なぜなら、モフィアスは飛べると信じているから。

マトリックス

マトリックス

だが、「高層ビルなど飛べっこない」と思い込むネオは、思い込みの通りに地上に落下してしまう。

マトリックス

コンピューター・シュミレーションでの出来事にもかかわらず、実際に口の中を切り、歯茎からにじみ出した血を不思議そうに見つめるネオにモフィアスは言う。

Your mind makes it real.
君の思い込みがそれを現実にするのだ

If you’re killed in the MATRIX ? You died here ?
では、もしマトリックスの中で殺されたとしたら? 君はここで死んでしまうのか?

The body cannnot live without the mind.
肉体は心なしに生存することはできない

マトリックス

「心」と「現象」、「現実世界」と「MATRIX」の関わりについて、少しずつ理解し始めたネオは、レジスタンスの仲間と共に再びMATRIXの中に入り、霊的指導者であるオラクルと対面する。だが、オラクルの答えは、YesともNoともつかない曖昧なものだった。

マトリックス

you already know what I’m going to tell you.
私が何を言わんとしているか分かるわね

I’m not the One.
僕は……the Oneではない

Sorry, Kid. You got the gift but it looks like you’re waithing for something.
ごめんね、坊や。あなたには能力がある、でもあなたは何かを待っているように見えるわ

ここで大事なのは、「The Oneは本当に実在するのか」「ネオはThe Oneなのか」という問いかけだ。

だが、オラクルは否定も肯定もしない。

確信が持てないネオに、「あなたの期待する答えと違ってごめんなさい」というニュアンスを込めて、「sorry」と答えるのみである。

さらにオラクルはモフィアスに対しても「あなたはThe Oneを見つけるだろう」という曖昧な予言しかしていない。

どこにも保証はないのだ。

にもかかわらず、モフィアスがThe Oneの存在を確信し、映画のクライマックスにおいて、ネオが「僕ははThe Oneだ」と自覚するのはどういう訳なのか。

ここにメッセージの本質がある。

「The Oneは本当に実在するのか」「ネオはThe Oneなのか」という問答には何の意味もない。

要は本人が「どうbelieve(信じる)するか」であって、答えそのものが運命を決するわけではないのだ。

すべてはモフィアスの確信に始まり、ネオが自覚することで完成した。

世界を導くのは人間の信念に他ならないことを、この場面は示唆しているのである。

さらにオラクルはモフィアスの身に起こるであろう悲劇と、その命運がネオの選択にかかっていることを予言する。

不安な気持ちで帰路に着くネオとモフィアスらの前に、エージェントに率いられた警官隊が現れる。
レジスタンス生活に嫌気が差した仲間のサイファが、MATRIXに戻る代償として(彼の望みはMATRIXの中でセレブになること)、レジスタンスの隠れ家を密告したのだ。
モフィアスはネオを守るべく、エージェントの前で身を盾にする。
ネオはモフィアスを助けようとするが、トリニティに「ここであなたが死んだら、モフィアスの犠牲が無駄になってしまう」と諭され、仲間と共に脱出する。

エージェントの狙いは、人類最後の都市である「ザイオン」のメインコンピューターにアクセスするコードをモフィアスから聞き出すことだ。
薬物を使い、モフィアスの心を破壊しようとするエージェントたち。

その様子をコンピューターを通して見守っていた仲間のタンクは、ザイオンを守るためにモフィアスのプラグを抜いて安楽死させることを提案するが、寸前にネオが待ったをかける。「I’m in(僕がマトリックスの中に入って、モフィアスを救い出す)」と。

「まるで自殺行為だ」と止めに入る仲間達に対し、

Morpheus believed somthing, and he was ready to give his life for it.
モフィアスは「何か」を信じていた。そして彼はそれに命をかける覚悟があった。

I understand that now That’s why I have to go.
今なら理解できる、それが僕が行かなければならない理由だ。

Because I believe in somthing.
なぜなら僕もまた『何か』を信じているからだ。

I believe I can bring him back.
彼を連れ戻せる確信がある。

ここでモフィアスの象徴であった『believe』が初めてネオの口から語られる。
それまでネオはこの世界に対しても、自分自身に対しても、何一つ確信が持てなかった。
何が真実で、何がそうでないのか、漠然とした不安の中で過ごしてきた。
だが、今はそうではない。
少なくとも「モフィアスを救い出せる」という確信がある。

ネオの確かな言葉を聞いて、タンクも考えを改める。
ネオの内的な変化に気付いたトリニティは、彼をサポートすべく、共にMATRIXの中に飛び込む。

確信に支えられたネオも、今は無敵だ。
最強のエージェント・スミスを前にしても、ひるむことがない。
その勇姿を見ながら、モフィアスがつぶやく。

He’s beginning to believe.
彼は信じ始めている

ネオがThe Oneであるかどうかは関係ない。

要は、ネオ自身が信じるか否かだ。

信じた彼の目にはエージェントもただのソースコードでしかない。

マトリックス

エージェントを滅ぼし、MATRIXを一時停止することに成功したネオは、いまだプラグに繋がれた人々に次のようなメッセージを投げかける。

I know you’re out there. I can feel you now.
今 君(=マトリックス)はその機能を停止した。僕には感じる。

I know that you’re afraid. You’re afraid of us. You’re afraid of change.
僕には君が恐れているのがわかる。君は僕たちを恐れ、変化を恐れている。

I don’t know the future. I didn’t came here to tell you how this is going to end.
未来のことなど分からない。僕は君たちにどのような結末を迎えるかを教えに来たのではない。

I came here to tell you how it’s going to begin.
どのように始まるかを示しにきたのだ。

I’ll hang up this phone.
僕はもうすぐこの電話を切る。

and then I’ll show these people what you don’t want them to see.
そしてカプセルに繋がれた人々に、君が見せたくないものを見せよう。

I’m going to show them a world…without you.
マトリックスの存在しない世界。

A world whitout rules and controls, without borders or boundaries.
法則も支配も、境界も限界もない世界。

A world where anything is possible.
あらゆるものが可能な世界。

Where we go from there…is a choice I leave to you.
マトリックスから離れて我々が目指す所… 君に委ねる選択

そして、ネオはスーパーマンのように空を飛んで行く。

Free your mind

心を解き放てば、君は空だって飛べるんだ……と。

マトリックス

あとがき

通の人から見れば「それは違うんじゃないか」という意見もあるかもしれませんが、『マトリックス』という映画はこういう哲学に支えられた作品だとういことをご理解頂ければ幸いです。

ちなみに、「MATRIX」とは、ラテン語の母(mater)から派生した語で、子宮という意味をもち、「そこから何かを生み出す背景、基盤、母体、基質」といった概念を表す言葉です。

初稿:2008年12月3日

『マトリックス』に関するDVD

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監督  ウォシャウスキー兄弟
定価  ¥ 1,500
中古 1点 & 新品  ¥ 1,500 から
5つ星のうち 4.4 (275 件のカスタマーレビュー)

第一作に関しては、ブルーレイで観る価値があります。
キアヌ・リーブスも若々しいし、トリニティ様もきらきらしています。
特にビルのガラスが砕け散る場面は最高ですね。
特殊効果の美しさを堪能して欲しいです。
Amazonビデオもありますよ。

マトリックス ワーナー・スペシャル・パック(3枚組) 初回限定生産 [Blu-ray]
出演者  キアヌ・リーブス, ローレンス・フィッシュバーン, キャリー=アン・モス
監督  ウォシャウスキー兄弟
定価  ¥ 4,980
中古 3点 & 新品  ¥ 4,980 から
5つ星のうち 3.4 (4 件のカスタマーレビュー)

この後、「マトリックス・リローデッド」「マトリックス・レボリューション」と続きますが、私はあまり好きじゃないです。
しかし、続編としては、まずまずかもしれません。少なくとも、第一作の世界観をぶち壊すことはしてないので。
とりあえず観て損はないですよ。

アニマトリックス [Blu-ray]
出演者  
監督  
定価  ¥ 2,314
中古 8点 & 新品  ¥ 2,314 から
5つ星のうち 3.9 (91 件のカスタマーレビュー)

これを観たら、いっそう理解が深まると、人に勧められましたが、私は冒頭しか観ていません。
お好きな方はどうぞ。

最終更新日: 2018年4月24日 初回公開日:2017.12.09

海洋小説『曙光』MORGENROOD

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海洋科学、鉱業、建築などをモチーフにした新感覚の人間ドラマ。『生の哲学』をテーマに人生、恋愛、仕事について描く長編小説です。Kindle Unlimitedなら読み放題。