2018/07/15 改訂版 「『あなたの悩み、分かるわ』詐欺に気を付けろ」「周りの人をカウンセラーにしない」「人生なんて相談しても仕方がないことが多い」

松田優作の映画『蘇る金狼』『野獣死すべし』~今に失われたもの~

松田優作の映画『蘇る金狼』『野獣死すべし』~今に失われたもの~
今も松田優作が生きていたら、80年代と同じように人気を博しただろうか。演出が過激だとか、性格がワガママだとか、批判を浴びせて血祭りに上げないか。今伝説として懐かしむからこそ、誰もが「いい映画だ」と惜しんでくれるのではないか。野獣が野獣らしく生きられたのは80年代まで。現代は野獣であること自体が罪と思う。80年代の空気を振り返りつつ、優作の魅力を振り返る映画コラム。『野獣死すべし』に登場する「漂泊者の歌(萩原朔太郎)」も紹介。「松田優作に学ぶナンパ成功術」画像付き解説、有名な「リップバン・ウィンクル」の台詞、大藪春彦の原作の抜粋も掲載しています。

70年~80年代の角川映画全盛の頃、『松田優作』という俳優は決して好きなタイプではなかった。

中学女子の王子様像とはあまりにかけ離れた鋭さや激しさ、そしてナルシストぶりが、私にはインパクトが強すぎて、まともに正面から見ることができなかったからだ。

だけど時が過ぎ、懐かしさから映画の予告編を見直すと、なんと色気のある役者さんだこと。

腰から下に真っ直ぐに伸びたスリムな脚に、くわえ煙草の似合うニヒルな口元。死にかけた兵士のような土色の顔の中に、眼だけが爬虫類のように見開き、この世のすべてのものを否定し、噛みついてみせる──。

誰でも表面でイキがることは出来るけど、演技と現実の境目がなくなるほど芯から狼になりきれる人はない。

もしそんな人が現実に存在するとしたら、それこそ伝説の野獣だと思わずにいないくらい、予告編の優作は他を圧倒して見えた。

*

松田優作の代表作『蘇る金狼』『野獣死すべし』(大藪春彦・原作)。

中学生の時は、キザで、凶暴なナルシストにしか見えなかった優作さんだけども、思えば、あれは役柄のせいだったんだと、つくづく。

今、彼が生きていたら、ハリウッドの赤絨毯で、レオナルド・ディカプリオの隣で、にっこり笑っているのはこの人だったかもしれない……と思わずにいない。

この作品については、思い入れたっぷりの素晴らしいレビューがたくさん公開されているので、私は違う角度からアプローチしようと思う。

★おすすめレビュー★

レビューサイト「藝術大全」より。
どちらもネタバレですが、所々に笑いを取り入れた、スピード感のある文章が絶妙。
「あの世代」にしか書けない珠玉のレビューだと思います。

『蘇る金狼』 //summaars.net/yomigaeru.html
『野獣死すべし』 //summaars.net/yajyu.html

予告編と名シーン

前野曜子の主題歌が大ヒットした『蘇る金狼』。
レビュアーの皆さん、書いておられますけど、中学生の私にも、風吹ジュンとのベッドシーンは(特に朝食の場面)衝撃でした(汗)。殿方の中にはあれを実践した人がいるんだね(ウソかマコトか知らないが)。それぐらい男性は刺激される作品ってこと。
とにかく松田優作の魅力をギュっと詰め込んだ、せつなく、痛快なハードボイルド。
脇役の成田三樹夫さんも素晴らしすぎる。ラスト、大量の麻薬を手に入れて「キヒヒヒヒ」と笑い出す場面は個人的にアカデミー賞をあげたいぐらい。


何もかも手に入れて、まさに「笑いがこみあげる」主人公・朝倉。
こういう演技って、できそうでできないよ。
これを演じた時、優作は30才。今の30才の俳優にこの不適な笑いができるだろうか。

※ 動画は削除されました

こちらは賛否両論わかれる『野獣死すべし』。大藪氏の原作は息の長いロングセラーであり、主人公の伊達邦彦は珠玉のキャラクターとして愛読者の記憶に刻まれる。
銀行強盗の後、彼を追跡してきた刑事にロシアン・ルーレットを仕掛け、アメリカの古典『リップ・ヴァン・ウィンクル』について語って聞かせる場面は、まさに狂気が乗り移ったかのよう。この迫力、日本映画史に残る名場面と思う。
「料理の鉄人」でスマートな進行役をつとめた鹿賀丈史さんが、ここでは血の気の多いチンピラを演じているのがポイント。
この作品は「たかしまあきひこ」さんのBGMが素晴らしい。


ネタバレになりますが、淡い恋心を抱く女性にも非情に銃を向ける伊達邦彦。
小林麻美さんの男性ファンって、根強いんですね。私はやはり同性ゆえに、あまり記憶に残ってなかったのですが。

※動画削除

野獣亡きあと

今、もし、優作が生きていて、ライブでこのような映画を制作したとしたら、果たして世間は両手を広げて迎え入れただろうか。

演出が過激だとか、性格がワガママだとか、重箱の隅を突くような批判を浴びせて、血祭りに上げないだろうか。

今、伝説として懐かしむからこそ、誰もが「いい映画だ」と惜しんでくれる。

でも、これが、明日にも大手の映画館で公開されるとすれば、多分、口汚く罵る人の方が多いのではないか、と思ったりする。

いちびるな。

自惚れるな。

なにカッコつけてんだよ、アホか、てめえ。

そんな声が聞こえてくるんだな、ネットの隅々から。

たとえ優作がいたにせよ、日本の映画界は、もう二度とこんなアクの強い作品は作らないだろう。

あり得ない設定でも、主演俳優の独壇場でも、「映画ってのはね、とことん面白くなきゃ」そんなエンターテイメントに撤したような作品は、手がける人もないし、演じる人もないと思う。

いわば、誰も彼もが小さくまとまって、波風立てないように媚び売ってるような感じ。

冒険もしないし、ワガママも言わない。

まして、「伊達邦彦を演じるために、足を5センチ切断して、理想の身長になりたい」などと、サイケな妄想に取り憑かれ、狂気の限界まで役に近づこうとするような役者さんは、少なくともメジャーな舞台にはもう二度と現れない。出たとしても、潰される。そういう青臭い土壌が、今の日本の客層にはある。

だから、つまらない。見る方も、作る方も、つまらない。

今の若い世代もさぞかし退屈だろうと思うよ。

次から次にアイドルグループや人気作品は登場するけども、酔えるほど面白くないもの。

まさに素人に毛が生えたような役者ばかりが世間の顔色を窺って、嫌われないよう、叩かれないよう、ビクビクしながら物を作ってるような感じ。

でも、それは、必ずしも作り手や演じ手が著しく衰えたからではない。

ネットや口コミを通じて、くだらない批判がワッと飛び込んでくるようになったからだ。

批判やスキャンダルはプロの宿命とはいえ、物には限度がある。

聞くに値する批判ならともかく、言いがかりとしか思えないようなクレームをあちこちに書き散らされて、それでも自分の世界観を貫こうなんて強い気持ちになれたら大したもの。たとえ当人にヤル気があっても、周りが顔色を窺って止めさせる。

ことなかれ主義がクリエイティブな世界をも浸食して、中身が空っぽになりつつある、それが今のエンターテイメントだ……というのは、言い過ぎだろうか。

多くのファンは、「今、もし優作が生きていたら」と輝くようなキャリアを思い描かずにいない。

でも、一方で、今のエンターテイメントに優作のような俳優の生き場所があるのだろうか、とも思う。

完璧主義の優作のこと、今の世の有様に苛立ち、憤死してたかもしれない。

野獣が野獣らしく生きられたのは80年代まで。

野獣亡きあと、エンターテイメントの世界も急速に乾いていった。

優作と一緒に自由も死んだ。

伊達邦彦が愛したニーチェの言葉を借りるなら、クリエイティブな世界における本当の意味での「自由」を、オレたちが殺してしまったのだ。何かあると、万匹の犬が訳も分からず一斉に吠えたてる、くだらない意見の海の中で。

『自由な表現』──それによって、世界がもっと面白く有意義に変わることを誰もが期待したけども、現実はかえって逆の方向に後退したような気がする。

ツールや技術がどう、というよりは、元々、本当の意味での個人の自由を受け入れる精神的土壌を欠いているからだろう。

まだ俳優や映画監督や脚本家が「特別な存在」であり、表現することが本当に才能ある一部の人たちだけに許された時代は、彼らのアクの強い主張も仰ぎ見るしかない歴然たるボーダーがあった。

でも、その境界線もぼやけ、誰もが一流、誰もが平等の錯覚に陥っている今は、他を圧倒するような本物のキラメキは、モグラを刺激する太陽でしかない。

牙を剥いた野獣さえもがんじがらめにして窒息死させる土壌においては、野獣であるそのこと自体が罪なのだ。

かくして、時代が変わる前に、優作はこの世の人ではなくなった。

あるいは映画の神様が、誇り高き野獣がズタズタにされる前に、そっとねぐらに帰してやったのかもしれない。

「もし、今、優作が生きていたら」と思う時、その才能を惜しみながらも、早すぎる死がかえって幸いしたのではないか、と感じる人は、きっと私だけではないはずだ。

松田優作に学ぶ:ナンパ成功術

どうやったら目当ての女性を陥落できるか、男性ならば、誰もが気になるところと思います。

私の知人いわく、女性を落とす必勝法は、「チームで動く」「間に挟む」「笑わせる」、この三点だそう。

たとえば、電車の中で、ナンパしたい女の子を見つけたとする。

座席に着くとき、その女の子を間に挟むような感じで、席を取るんですって。(ポジションは前後でもOK)

男 - 女 - 男

それから、女の子に聞こえるように、めっちゃ面白い話をする。もちろんエロ話や低俗ネタは厳禁。落語みたいに気の利いたジョークをかますそうです。

で、1度でも、女の子が「ぷっ」と吹き出して、つられ笑いしたら、かなりの確率でジョイントできるそう。

私も話を聞いた時、半信半疑でしたが、優作のこの場面を見て納得しました。

会社乗っ取りを企む朝倉哲也は、重役・小泉の愛人、永井京子に近づく為に、ゴルフ場で接近します。

まず、さりげに彼女の隣のブースを抑える。

松田優作 蘇る金狼

彼女の視界に入るようにポーズを取り、わざと面白い仕草をする。

松田優作 蘇る金狼

彼の存在が気になり、ちらちらと、こちらを見るようになれば、確率30%

松田優作 蘇る金狼

一度目のアクション。わざとゴルフのクラブを吹っ飛ばし、お茶目にアピールして笑いを誘う。

松田優作 蘇る金狼

彼女が「ぷっ」と吹き出したら、確率50%

松田優作 蘇る金狼

二度目のアクションで、さらに印象づける。

松田優作 蘇る金狼

彼女が大笑いしたら、確率80%

松田優作 蘇る金狼

紳士的に食事に誘い、品のあるところを見せる。「食事だけ、っていう約束よ」 これも定番の台詞だ。

松田優作 蘇る金狼

酔った彼女が甘えるように寄りかかれば、後はお決まりのコースと。

松田優作 蘇る金狼

ちなみに朝倉は彼女のお茶に一服盛ります。デートドラッグですね。もちろん、良識ある皆さんは、こんな悪い事をしては駄目ですよ。

「こんなん、優作やから出来ることや。普通の男はムリムリ」と思うかもしれないけど、『女性を笑わせる』って、最強ですよ。

変に気取った男性より、面白くて、女性も気が緩みやすいから。逆にイケメンとかエリートみたいな方が疲れて、ガードが固くなる。

この場合も、超二枚目の朝倉が、わざとトボけた三枚目で接近したから思い通りに陥落したわけで、最初からキザな台詞で口説いても、逆に警戒されて上手くいかなかったと思います。

こちらは有名な「金子がね」。朝倉暗殺の陰謀がバレて、逆に重役たちがとっちめられる場面です。焦った小泉が、全ての罪を金子になすりつけようとして、「金子がね~」という台詞は、とんねるず(?)でもやってたらしいです。

松田優作 蘇る金狼

そうして、重役たちを追い詰め、まんまと会社乗っ取りに成功した朝倉君。
一番最初にやることといえば……そうです、スーパーカー、『カウンタック』。
成功→高級車という流れが、まったく80年代っぽいです。(今でもやってる人いるらしいけど)

松田優作 蘇る金狼

早朝の東京を疾走。よくこんな場面が撮影できたもの。

松田優作 蘇る金狼

全てを手に入れ、不敵な笑いを浮かべる朝倉。私もこんな風に笑ってみたい^^;

松田優作 蘇る金狼

そうなると、次もお決まりのコース。社長の美人令嬢。

松田優作 蘇る金狼

社長と晩餐会って、本当にこんな感じ? うちら、剣菱やったよ~

松田優作 蘇る金狼

しかし、意外な展開が待ち受ける。

松田優作 蘇る金狼

チケットを破り捨てる場面が悲しい……

松田優作 蘇る金狼

昼間はぼんくら社員というのが、MATRIXのネオみたい (^_^)

松田優作 蘇る金狼

朝倉君の朝食は意外と質素。ヤマザキパン五つ切りやな。

松田優作 蘇る金狼

松田優作の「伊達邦彦」

『野獣死すべし』の中で、主人公の伊達邦彦が、自分の心情を託して詠みあげる荻原朔太郎の詩。
私もこの映画を見て初めて知ったのだけど、優作が朗読すると、それだけでドラマになりそうな感じ。

漂泊者の歌(1921) 萩原朔太郎

日は断崖の上に登り
憂ひは陸橋の下を低く歩めり。
無限に遠き空の彼方
続ける鉄路の柵の背後(うしろ)に
一つの寂しき影は漂う。

ああ汝、漂泊者!
過去より来たりて未来を過ぎ
久遠(くおん)の郷愁を追ひ行くもの。
いかなれば蹌爾(そうじ)として
時計の如く憂ひ歩むぞ。
石をもて蛇を殺すごとく
一つの輪廻を断絶して
意志なき寂寥(せきりょう)を踏み切れかし。

ああ 悪魔よりも孤独にして
汝は氷霜の冬に耐えたるかな!
かつては何物をも信ずることなく
汝の信ずるところに憤怒を知れり。
かつて欲情の否定を知らず
汝の欲情する者を弾劾せり。
いかなればまた愁ひ疲れて
優しく抱かれ接吻(きす)する者の家に帰へらん。
かつて何物をも汝は愛せず
何物もまたかつて汝を愛せざるべし。

ああ汝 寂寥の人
悲しき落日の坂を登りて
意志なき断崖を漂泊(さまよ)ひ行けど
いずこに家郷はあらざるべし。
汝の家郷は有らざるべし!

この場面な。

どうやら伊達臣人、じゃなくて、邦彦は、過酷な戦争体験が元で、性的不能になったらしい(多分)。 それとも異常な潔癖症で、人間嫌いの極みとか。

ちなみに、こういうシチュエーションは、映画『ケープタウン』でもありました。暴力によって不能にされた男性は、性欲はあるけども、女性と接触することができない、一種の精神的な障害みたいなものです。

松田優作 野獣死すべし

伊達邦彦も、昼間はクラシック音楽を愛する、知的なビジネスマン。とても猟奇的には見えない。

松田優作 野獣死すべし

そうとは知らずに好意を寄せる華田令子(=小林麻美)。今時、こんな、はんなりした美女も希少でしょう。

松田優作 野獣死すべし

普通の男女としてデートに出掛けるが、伊達の態度は素っ気ない。
小林麻美の役も台詞が少ないのだが、この場面の「伊達さん……」は非常に印象的。すっごく可愛い❤

松田優作 野獣死すべし

女性との接触を避ける伊達も、この時ばかりは…… まるで『アダムの創造』を見るような、ロマンティックな場面です。

松田優作 野獣死すべし

松田優作 野獣死すべし 小林麻美

これも有名な銀行強盗の場面ですね。

松田優作 野獣死すべし

スローモーションで見せる小林麻美の表情が切なくも美しい……

松田優作 野獣死すべし 小林麻美

私も学生時代は、こういうタイプの人が好きだったんですよ。周りになかったけどね^^;

松田優作 野獣死すべし

またこの頃の鹿賀丈史のチンピラぶりもたまらん。後に「料理の鉄人」で、あんなクールになるとは夢にも思いませんでした。

鹿賀丈史 野獣死すべし

鹿賀丈史 野獣死すべし

『野獣死すべし』といえば、リップバン・ウィンクルのエピソードが有名ですね。
知ってるけど、訳が分からないという方も多いのではないでしょうか。

松田優作 野獣死すべし

銀行強盗した伊達邦彦を目前まで追い詰める柏木刑事だが、逆に相棒の真田に挟み撃ちにされ、拳銃を奪われます。

伊達は、銃弾を抜くと、一弾だけ装填し、柏木刑事にロシアンルーレットを仕掛けます。

一発、一発、空弾を打ちながら、柏木に話すのがリップバン・ウィンクルの逸話。

寝ますか?
寝る前に お話を一つ してあげますよ

リップバン・ウィンクルのお話、って知ってます?
いい名前でしょ。

彼がね 山へ狩りに行ったんですよ。
そこで こびとに会ったんです。
何て名前だったか 忘れましたけどね
ずいぶん昔だったから

そにかく そのこびとに会って
ウィンクルはお酒をご馳走になったんですよ
そのお酒があまりにも美味しくて
どんどん酔ってしまったんです

そして 夢を見たんです
眠りに落ちて

夢を見たんです……

寒いですか?

その夢はね どんな狩りでも許されるという
素晴らしい夢だったんです
ところが その夢がクライマックスに達した頃
目が覚めてしまったんですよ

辺りを見回すと こびとはもういなかった
森の様子も 少し変わってた
ウィンクルは慌てて 妻に会うために 村に戻ったんです

ところが 妻はとっくの昔に死んでたんですよ
村の様子も全然変わってましてね

分かります?

つまり ウィンクルが一眠りしている間に
何十年もの歳月が経っていたんです

面白いでしょ

台詞だけ見ると、訳が分かりませんが、要は、伊達邦彦は大手通信社の外信記者として数々の戦場を渡り歩き、過酷な現場を目にするうちに、通常な感覚や価値観を喪失してしまうわけです。その過程は、ロシアンルーレットの場面に時々挿入される戦争写真で窺えます。

つまり、自分が戦争の取材でで走り回っている間、日本はのんびりと時間が過ぎて、戦場とは正反対の平和の只中にある。
まったく環境の異なる社会に戻って、悪い夢でも見ていたような気分になったのでしょう。

「ウィンクルが一眠り」というのは、喩えで、戦場に取材に行っていた期間を指すのだと思います。

「どんな狩りでも許される」というのは、戦場での残虐な行為でしょうね。

一種のPTSDに位置づけられるのかもしれません。

松田優作 野獣死すべし

このエピソードの落ちは、「そんな酒なら、飲んでみたいな……」と強がる柏木に、伊達がカクテルのレシピを語ります。カクテルの名前は『XYZ』、即ち、「これで終わり」という意味です。

そして、最後まで銃弾は発砲されず、「あんた、ツイてるね。面白かったでしょ。僕も疲れちゃった。寝ましょう、今日は」と、いったん終息したように見えますが、その後、無残な暴力が行われるという最悪の結果です。

ちなみに、大藪春彦の原作の文体はこんな感じです。

深夜。しめやかな雨が、濡れた暗い舗道を叩いていた。

黒々とそびえる高い塀にかこまれた新井宿の屋敷町。

青白い門灯が、あたりの鬱蒼とした樹木に異様な影を投げ、その邸宅の前には通りすぎる人影もない。遠くから、寝もやらぬ街のダイナミックな息吹がかすかに伝わってくる。この雨に拾った客を乗せて、時々気違いじみたスピードでかすめ通った流しのタクシーも今はすでに途絶え、この一郭は静かに眠りをむさぼっていた。

「夢見るような瞳」「夢見る趣」とあるように、原作の伊達邦彦も、我々の現実社会とはまったく異なる次元に生きています。

黒塗りのボディを滑らかに光らせたビュイック・エイトは、水をはね返す音をかすかにたてて滑りこみ、その大邸宅の手前に止まった。濡れたアスファルトに、車のシルエットが鮮やかに映る。

車の中の男は、ヘッド・ライトと車内灯のスイッチを切った。

クッションにもたれて、ラジオから流れる甘美な深夜の調べに、夢見るような瞳をあげて耳を傾けている。

ポマードもつけぬ漆黒の髪はおのずから渦を巻き、彫ったように浅黒く端正な顔は若々しい。甘い唇には孤独の影があるが、愁いを含んで深々と光る瞳には夢見る趣がある。

描写もスピード感があって、映像的です。

車の中の男は警部に声をかけた。

振り向いて車へ顔を寄せる警部へ、男は拳銃をつきつけた。

警部はさざ波の様に腋の下へ手を伸ばしたが、一瞬早く車の中の男は引き金をひいた。

掌から肩にかけて突っ走る軽い衝撃と共に発する銃声は、パッと鋭く小さい。

警部は眉間に小さな穴をあけて、くずれ落ちた。流れ出る血は見る見る雨に滲んで、濡れたペーブメントにとけていった。

Amazonより:
敗戦で満洲から引揚げた伊達邦彦少年は、大戦の惨害に人間性の根底まで蹂躙され、大学生の頃には計算しつくされた完全犯罪を夢見るようになる。大学入学金の強奪に成功した彼は、戦時中父の会社を乗っ取った京急コンツェルンに対し執拗な復讐を開始する。怜悧な頭脳、端正な容貌と猛獣のような体躯を持つ非情の男伊達邦彦を描くハードボイルド小説の傑作。大藪春彦のデビュー作となる正編に加え、「週刊新潮」に連載された続編となる復讐編を収める。

とあるように、原作の伊達邦彦は、映画とは大きく違っています。社会に踏みつけにされた男の復讐劇のような印象です。
松田優作の伊達邦彦は、ちょっと繊細な感じだけれども。

興味のある方は、新潮文庫の原作も併せて読むと面白いですよ。

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上司の愛人に近づき、クスリ漬けにして、ついには会社経営権と社長令嬢まで手にするが……。

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多少ご都合主義な話運びはともかく、優作はじめ名脇役たちもこれ以上ないほど生き生きと輝いている。
特に小心で小賢しい上司を演じる成田三樹夫のうろたえ方は最高。脇役を見るだけでも十分に楽しめる。
千葉真一もちょろっと登場するけども、優作の存在感をかすめないよう、ちょっと間の抜けた感じで演技しているのが印象的。

これはもう、松田優作という俳優を堪能するための作品。
大藪春彦の原作がずっと再版されないのが悔しいね。

日本の映画も昔はこんなアダルトで色濃い濡れ場を撮ってたんだよなー、とつくづく。
女優さんも肉感的で、世界ダントツの色気があります。

松田優作みたいな俳優なんて、二度と出てこんでしょうね。

こういうこと言うと、ホント不謹慎かもしれんけど、
精気がギラギラした狐狼のまま亡くなって、俳優としては良かったのかもしれん・・
「白髪のおじいさん」になっても、それはそれで魅力的だったかもしれないけど、果たして今の時代にマッチしたかなー、と、つくづく思う。高倉健さんや緒方拳さんや山崎努さんの色気とはまたちゃうからねー。

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だったのが……

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戦争ジャーナリストとして世界中の激戦地を体験するうち、他人には到底理解し得ない独特の哲学を体得した伊達は、たまたま出会ったチンピラを感化して、凶悪な銀行強盗を働く。追跡してきた刑事をめった打ちにし、彼らの逃亡は成功したかに見えたが……。

「蘇る金狼」が素直に受け入れられるのに対し、この作品は賛否両論で、松田優作のワンマンぶりに嫌悪感をもよおす人も多い。
にしても、ロシアン・ルーレットを仕掛けて『リップ・ヴァン・ウィンクル』の物語を語り聞かせる演技は、常人には絶対に真似できないもの。
この場面を鑑賞するだけでも見るに値する。
バックに流れている無機質なジャズ・バラードも秀逸。
最後はわけわからないけど、いつまでも心に残る映画です。

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敗戦で満洲から引揚げた伊達邦彦少年は、大戦の惨害に人間性の根底まで蹂躙され、大学生の頃には計算しつくされた完全犯罪を夢見るようになる。大学入学金の強奪に成功した彼は、戦時中父の会社を乗っ取った京急コンツェルンに対し執拗な復讐を開始する。怜悧な頭脳、端正な容貌と猛獣のような体躯を持つ非情の男伊達邦彦を描くハードボイルド小説の傑作。大藪春彦のデビュー作。
これは未だに根強い人気を誇り、ずっと刊行されています。

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(0 件のカスタマーレビュー)

つい購入してしまった四枚組。「蘇る金狼」「野獣死すべし」「人間の証明」「探偵物語(薬師丸ひろ子))」。
でも、「蘇る金狼」が一番いいね。

初稿:2010年12月10日

最終更新日: 2017年12月15日 初回公開日:2012.12.16

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