2018/07/15 改訂版 「『あなたの悩み、分かるわ』詐欺に気を付けろ」「周りの人をカウンセラーにしない」「人生なんて相談しても仕方がないことが多い」

プロの矜持とリーダーの決断 プロジェクトを予定通りに完遂する

プロの矜持とリーダーの決断 プロジェクトを予定通りに完遂する

リーダーの資質といえば、決断力、行動力、統率力、いろいろありますが、一番求められるのは正しい判断が下せることでしょう。
どれほど部下が優秀でも、崖の方にハンドルを切るリーダーでは、組織も沈下し、個人の力も潰えます。
ある意味、力の強さや規模より、判断の正しさの方が、組織の命運を左右するのかもしれません。

もちろん、いつも正しい判断が大勢を嬉しい気分にするわけではなく、その場では人に恨まれることもあるでしょう。その恨みも引き受けるのがリーダーの器かもしれません。誰に対しても「いい人」ではリーダーは務まらない所以です。

本作では、海底鉱物資源の採鉱プロジェクトの最高責任者であるアルが、完全自動化か、無人化か、テスト潜航はどうするのか、という状況の中、最後に決断を下します。(決断というほど、大きな決め事でもないですが)

同情だけでは正しい判断は下せないし、誰にでもいい顔では物事は進展しません。

嫌われてもいけないし、侮られてもいけない。

経験してない人は、リーダーシップと簡単に言うけれど、非常に難しいものなのです。

このパートは海洋小説『曙光』(Kindle版)の抜粋です。
詳しくは作品詳細をご参照下さい。

概要

海底鉱物資源の本採鉱が間近に迫っているにもかかわらず、プラットフォームのスタッフは、完全無人化か、有人潜水艇の投入かで意見が二分し、まとまりがない。ヴァルターは当日の水中作業をより確実にする為に、有人潜水艇のテスト潜航を申し出るが、マネージャーのダグに却下され、言い争ってばかりいる。現場がこれだけ揉めても、MIGの経営者であるアル・マクダルの頭の中には採鉱事業の成功しかない、と突っ張るヴェルターに対し、採鉱システムのプロジェクト・サブリーダーであるマードックは、「そんな人間ばかりではない」と優しく諫める。

突き詰めれば、あの人の頭の中には目標の達成しかない

前のエピソードの続き。結局、プラットフォーム・マネージャーのダグやガーフとも折り合いが付かず、禍根を残しただけに終わってしまう。

にわかに目の前が暗くなり、何かと思えば、マッコウクジラの兄弟が立っていた。
二人は断りもせず彼の前に座ると、荒っぽく食事のトレイを置き、チキンカツにソースをぶっかけた。意外とカツは一枚だ。

彼が無視して二枚目のチキンカツにナイフを入れると、

お前、食い過ぎじゃねえか。定額制をいいことに人の倍ほど食らいやがって、厚かましい奴だ
ダグが侮蔑するように言うと、ガーフも「ガハハ」と笑った。

「そういえば、お前、いつも同じ服を着てないか。この前もカジュアルチェックのシャツで、今日もそう、初めて来た日もだ。まさか洗濯もせず、毎日同じ服を着回してるんじゃないだろうな」

「同じに見えるのはカジュアルチェックのシャツしか持ってないからだ。毎朝、何を着るか考えるのが面倒だし、他にどんな服が似合うかも分からないから、色違いのカジュアルチェックで揃えてるだけの話だ。それに洗濯なら三日に一度はしてる」

「苦しい言い訳してるぜ。ここに来たのも飯が食いたいだけだろう。本音は採鉱事業もプラットフォームもどうだっていい。稼ぐだけ稼いで、後は知らん顔だ。お前みたいな奴はどこの世界にも大勢いる。無責任に気の向いた時だけ働いて、タダ飯と分かれば犬みたいに食らうんだ

「あんた、あまりに口が過ぎるんじゃないか。俺は俺なりに努力してるし、皆に迷惑をかけるつもりもない。ただでさえナーバスになってる時に、イライラ当たり散らしてプレッシャーをかけるのは止めてくれ」

–中略–

「お前、この採鉱システムを作るのに、どれだけ苦労したか分かってるのか。親父の代から水に浸かり、油にまみれて、一つ一つ組み上げてきた。志半ばで世を去った人だっている。それをお前一人のちんけなプライドの為に台無しにされたくねぇんだよ。お前にも多少なりと理解する頭があるなら、ミッションから降りろ。プロテウスに乗りたければ、ノボロスキ社に行け」

「そういうことは理事長に言えよ。俺をここに連れてきたのは、理事長だ。俺の方から頼んで仲間に入れてもらったわけじゃない。あんたがそうやって興奮すればするほど、自分が不利になるだけだと分からないのか? この際、はっきり言ってやる。俺とあんたとどっちに分があるかといえば、残念ながら俺の方だ。俺はあんたの気付かぬ事にも気付いて、解決策も提示できる。理事長にしてみたら、あんたの膠着した意見より、俺の新しい視点の方が十倍面白い。理事長に数十年の苦労話を語って聞かせたところで、あの人の事業熱の前には何の意味もないことぐらい、あんたにも分かるだろ?あの人はいい人だが、根っこは誰よりも剛毅で執念深い。それだけの情念があるから、辺境の海にこんなでかいプラットフォームが建つんだ。ここで長く働きたければ、俺と揉め事を起こすな。あんたの話に『うん、うん』と頷きながらも、頭の中ではきっちり査定して、いつか精算に乗り出すぞ」

場がしんと静まり返ると、彼はチキンカツにぐさりとフォークを突き刺し、
「俺も執念深いから分かるんだ。突き詰めれば、あの人の頭の中には目標の達成しかない。俺もあんたも所詮、手持ちのコマだ。どちらが勝っても負けても、意味なしだ

人間嫌いと仕事の矜持:一度、頭の中を真っ白にしてみろよ

※ ダグとのやり取りを知って、サブリーダーのマードックが諫める。

「酒も飲まない。ゲームもやらない。映画も音楽も興味なし。お前、何が楽しみで生きてるんだ?」

「別に。食事して、ぼーっとTVを見て、それで一日が過ぎていくだけの話だ。俺は俺なりに楽しんでるよ。楽しみ方が世間一般と異なるだけで」

「だが、たまには娯楽室に来て、皆と話せばどうだ。チームメイトと仲良くやるのもミッションのうちだぞ」

「俺は歓迎されてない」

「歓迎も何も、皆とよく話もしてないのに、どうしてそんなことが分かるんだ。ゴタゴタしてるのは事実だが、一部だけだ。皆もお前に興味を持ってるし、お前の方から歩み寄れば、皆もすぐ打ち解ける」

「……」

「人間嫌いなのか」

「そんなことはない」

<中略>

「だが、よく粘るよな。お前のことを見直したよ。ダグにテスト潜航を突っぱねられた時点で『降りる』と言うか、理事長に泣きつくと思ってた」

「俺にも矜持はある。そんな簡単に折れたりしない」

「矜持か。俺はそういう美点を親父に学んだな。ジム・レビンソンみたいに取り立てて才能のある人ではなかったが、仕事に関しては誠実で、向上心の強い人だった。元々は造船会社のシステム工学デザイナーだったんだが、業績不振だ会社が倒産した時、ここの求人を見て応募した。理事長が直で面接して、その場で採用された。親父もやはりジム・レビンソンの苛めに苦しんだ一人だが、理事長のことは心から感謝していた。僕が十六歳で、親父が五十歳の時のことだ。しかし、僕は最初、ここの暮らしが嫌で嫌でたまらなかった。今ほど便利でもないし、友達もほとんど無くて、絶海の孤島みたいでね。親父にもずいぶんかみついて、ネーデルラントに帰るの、帰らないのって、毎日喧嘩してたよ。でも、親父が六十歳になり、いよいよ仕事が辛くなってきた時、何となく後を継ごうという気になった。それから猛勉強して、親父が取り組んでいた仕事の内容も理解できるようになった。親父は五年前に病気で倒れて、テスト採鉱の成功を見ることなく世を去ったが、今もずっとここに居るような気がする。初めてのテスト採鉱で、揚鉱管の排出口からクラストを含んだ泥漿が滝のように溢れ出てきた時はね……あれを見せてやりたかったよ。本当に。──あー、気分を害したかね、こういう湿っぽい話」

「いや」

ダグやガーフも同じだよ。あんな大風を吹かせているが、根はデリケートで、僕よりもっと苦労してる。彼らはマクダエル理事長がエンタープライズ社を立ち上げる八年も前にアステリアに来てるんだ。ダグは十歳、ガーフは九歳だった」

<中略>

人事というのは面白いものだ。能力や性格だけでは計り知れないものがある。個々は未熟でも、ペアを組めば三人分の働きをする人もある。理事長はその妙をよく知っている。『拾いの神』と称されるのも、能力だけで人を判断しないからだ。お前の言う通り、あの人の本質は経営者だ。利益を上げ、事業を拡張する。ボーイスカウトの隊長みたいにはいかないだろう。だが、一つだけ、お前は見当違いをしてる。あの人はぎりぎりのところで利益よりも義理を取るということだ。世の経営者の九十九パーセントは、お前の言うようなタイプなんだろう。だが、残りの一パーセントはそうじゃない。そう信じることが、物の見方を変えるんじゃないかな

「物の見方を?」

「何となく、権力者とか金持ちとかを憎んでるように感じるからさ。まあ、好きな人はないと思うが、それも一つの偏見だ。偏見があると、どうしても物事を見誤る。根っこに憎悪があると、なおさらに」

「……」

一度、頭の中を真っ白にしてみろよ。お前、いいもの持ってるのに勿体ないよ。すぐ短気を起こして、喧嘩腰になって、物事をいっそう複雑にする。一本回線の繋ぎ方を変えれば、すいすいと良い方向に行きそうな気がするんだがな

リーダーの決断:同情しても譲らない

※ 最高責任者のアル・マクダエル社長を交えて、再び主任会議が開かれる。リズも途中から同席する。

ラファウの説明が終わると、アルは簡単に礼を言い、マルティン・オイラーや採鉱事業部長に他に質問はないか訊ねた。特に何も無いと答えると、アルはテーブルに広げた資料をとんとんとまとめ、
「本採鉱を一ヶ月後に控え、皆の緊張もひとしおと思うが、まずは一言。プロジェクト・リーダーが事故で亡くなるという不測の事態が生じたにもかかわらず、冷静に体勢を立て直し、予定通り計画を進めようとする皆の機知と努力には敬意を表したい。しかしながら、二、三の点において、わしも承服しかねることがある。一つはジム・レビンソンの使い込み。もう一つはテスト潜航だ」

リズは思わず顔を上げ、父の顔を見た。

「レビンソンに替わって新しいパイロットに接続ミッションを任せることにしたが、パイロットいわく『テスト潜航』が必要だという。その理由について、主任会議の議事録を参照し、二、三の部署長から話を聞いたが、いまひとつ説得力に欠けるというのがわしの率直な意見だ。その点について、どう思うね」

誰も口を開かず、アルがヴァルターに意見を求めると、ヴァルターは先の主任会議で主張した事をもう一度繰り返し、テスト潜航の必要性を説いた。

アルは黙って聞いていたが、
「では、もしお前の予想に反する結果に終わったら、どう始末をつけるつもりかね」
と鋭い口調で切り返した。

「お前は『テスト潜航することで、新たな発見がある』と主張するが、めぼしいものは見つからず、人手と経費の無駄遣いに終わったら、どう埋め合わせするつもりかと聞いているんだ」

「それは……」
彼が口ごもると、アルは皆の顔を見回し、

「もう一度、単刀直入に聞こう。現段階の技術力で絶対的にテスト潜航が必要だと同意する者は挙手してもらいたい」

「あの、理事長、絶対かどうかと問われたら、それは言い切れないかもしれません、でも、予算の範囲で、もし出来るなら……」

ミセス・マードックが助け船を出すと、

今、わしが求めているのは『絶対的な理由』なのですよ、ミセス・マードック。それでなくても不要な実験や設備に余計な支出をすることが多かった。その都度、引き締めを求めてきたが、徹底できないまま今日に至る。もちろん、その非はプロジェクト・リーダーの暴走を抑えられなかったわしにも原因はある。その点について、全員を断罪する気はさらさらない。だが、今また新たな使い込みが発覚し、たとえそれが全予算の一パーセントにも満たないものであったとしても、これを見過ごすわけにはゆかない。それはテスト潜航と直接関係ないにしても、これからその穴埋めをしなければならないマネージャーにとっては大きな問題だ。そして、どちらを取ると聞かれたら、わしは迷いなく後者をとる。そこに『絶対的な理由』がない限り、これ以上、周りに余計な負担をかけることはできないからだ」

「……」

「さて、もう一度、聞くが、プロテウスがあっても、なくても、接続ミッションは成功すると確信する者は挙手してもらいたい

「それは全行程を無人機で操作するということですか?」
ラファウ・マードックが恐る恐る聞き返すと、
どんな状況であれ、だ
アルは強い口調で答えた。

「十月十五日、午前八時、君はオペレーションルームに入り、全部署にミッション開始の指示を出す。それと同時に監視用の無人機が海中に降下され、タワーデリックでは揚鉱管の連結作業が開始される。そこにプロテウスが存在しようと、しよまいと、接続作業を完遂できるかと聞いてるんだ」

マードックはヴァルターに遠慮するように目を瞬いたが、「やれます」と答え、マードックの隣に座っていたノエ・ラルーシュも「やります」と頷いた。
続いて、ブロディ航海士も、機関士長のオリガも同様に頷き、ダグ、ガーフ、その他の主任も決意を新たにするように頷いた。

アルは一同の顔を見渡すと、ヴァルターに向き直り、

「テスト潜航したいお前の気持ちも分かる。それなりに意義が有ることも理解しているつもりだ。だが、わしは、レビンソンの件も含めて、ダグとガーフには非常に厳しい態度を取っている。先月、これ以上、経費の無駄遣いをするなら降格も厭わないと道破したのも本当だ。わしの考えを言えば、本採鉱の接続ミッションは予定通りプロテウスを使ってもらいたい。だが、どうしても操作に自信がない、テストしなければ潜れないというなら、無人機に任すか、エイドリアンに主要な操作を替わってもらえ。当日、お前がプロテウスに乗らなくても解雇するようなことはない。甲板作業を手伝えば十分だ。己のプライドか、全体の利益か、どちらが大事かよく考えろ

アルは席を立ち、両隣の重役も続いた。

マネージャーのプレッシャーと現場の責任

※ 主任会議の後、ヴァルターはミセス・マードックと語り合う。

「なんだか申し訳ないわね。あなたも十分やる気で来たのに、パイロットが必要だの、必要ないだの、みなの意見がばらばらで」

「正直なところ、どうなんです? 必要なのか、必要ないのか、あなたなら客観視できるでしょう?」

「よかったら、私のデスクで話しましょうか。あそこなら技術部のスタッフは滅多に来ないし、総務部の女の子も聞き耳を立てるような人はないから」

一緒に総務部に戻り、ヴァルターから食堂でのやり取りを聞くと、ミセス・マードックはふーっと溜め息をつき、「やっかみもあるでしょうけど、彼らの苛立ちも分かるわ」と答えた。

「威張ったように見えるけど、内心では戦々恐々としてるのよ。本採鉱が始まれば、採鉱システムの完成ではなく、利益を上げることが第一義になるものね」

「それは分かります」

「彼らも技術的なプロジェクトをマネジメントする力はあるけど、収支計算、コスト管理、人員の再配置、関連企業との連携など、経営面ではどうしても弱い部分がある。そして、そのことは彼ら自身が一番よく知っているわ。採鉱事業が本格化して、いっそう数字が求められるようになれば、経営に長けたゼネラル・マネージャーが必要になるでしょう。そうなれば、自分たちが真っ先にお払い箱になることを本気で心配してるのよ。にもかかわらず、あなたは主任会議の直後に美人のお嬢さんとヘリポートでデートでしょう。事情を知らない者が見れば、『何をやってるんだ』と思うわよ。主人も若いオペレーターも、いちいち口に出して言わないだけで、内心では大変なプレッシャーを感じているから」

「……そうですね」

みなジム・レビンソンの悪口を言うけれど、やはりプロジェクトの要には違いないのよ。採鉱システムの構造から水中作業の行程まで、全部そらで言えるのは、レビンソンとうちの主人ぐらいだもの。そんな人を欠いて平気なはずがない。そんな中、プロテウスを使うの、使わないの、テスト潜航がどうこうと枝葉の部分で振り回されて、末端のスタッフにしてみたら『いい加減にしてくれ』と思うわよ。もちろん、あなた一人のせいではなく、足並みを揃えることができない主任クラスの責任なのだけど」

「でも、あなた方は仕方ないでしょう。突然、プロジェクトリーダーがなくなるという事態に直面したのですし」

それは理由にならないわよ。小さなグループワークならともかく、これほど大きなプロジェクトになれば、いつ何が起きてもおかしくない。重要な任にある人が突然病に倒れたり、月末には納品されるはずの物資が先方の都合で何週間も先延ばしされたり、関連省庁の担当が変わった途端、あれもダメ、これもダメと突っぱねられたり。こちらがどれほど綿密な計画を立てても、思わぬ要因に足を引っ張られるのが普通よ。でも、その度に右往左往していては、とてもじゃないけどプロジェクトの指揮などできない。レビンソンの事故も想定外には違いないけど、それでも予定通りに完遂するのが主任クラスの責務よ

Product Notes

こちらは洋上の石油リグの暮らし。ヘリポートから降り立つ演出がえらく恰好いい。

こちらも石油リグの一日を描いたもの。ドラマ仕立てで

こちらは実際に起こった石油プラットフォーム火災を題材にした映画『バーニング・オーシャン』。
爆発の描写が凄まじい。年を重ねたカート・ラッセル(スネーク・プリスケン)の演技も秀逸でした(*^_^*)

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

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最終更新日: 2018年3月29日 初回公開日:2017.09.15

海洋小説『曙光』MORGENROOD

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