2018/07/15 改訂版 「『あなたの悩み、分かるわ』詐欺に気を付けろ」「周りの人をカウンセラーにしない」「人生なんて相談しても仕方がないことが多い」

人間の存在理由と深海の生き物 宇宙の片隅の一期一会

人間の存在理由と深海の生き物 宇宙の片隅の一期一会

私が『海』について書き始めた動機の一つは、この詩です。

存在理由と深海の生き物

書いたのは2000年頃ですが、1990年代、バブル崩壊から氷河期にかけて、にわかに『癒やし系』や『自分探し』がブームになり、それに反発する気持ちもあったでしょうか。「何ものかでありたい」という気持ちも分かるけれど、それが全てでもない……という気持ちです。

早い話、「自分の存在を無視されたくない」というのが一番の動機で、本気で自分探しをしている人も皆無でしょう。

もやもやした不満や苛立ちを言い換えるのに「存在理由」という言葉が都合がいいだけで、本質は、誰にも愛されない・認められない不安なのかもしれません。

このパートは海洋小説『曙光』(Kindle版)の抜粋です。
詳しくは作品詳細をご参照下さい。

概要

Introduction

ロバート・ファーラー社長に脅迫され、為す術も無くすが、以前の上司、ランベール操縦士長に励まされ、『宇宙の片隅の一期一会』を胸に三回目の潜航に挑む。新米パイロットを指導する傍ら、実況も続け、ついに生命の巣を探り当てる。

抜粋

あなたはなぜ海洋科学を選んだの?

三度目の潜航。潜水中、耐圧殻の中で。海洋科学者のノックスと雑談

「海洋調査といっても、垣間見える世界は本当に僅かだな」
ノックスが覗き窓の向こうを見ながら呟く。
「はるばる遠洋に出掛けても、海が荒れたら無人機も出せないし、せっかく潜航できても、ほんの数時間、数キロメートルを移動するのが精一杯では、百回潜っても、全容解明には至らない。宇宙探査の方がはるかに進んだのも解るような気がするよ」

「そうですね。いくらデジタルデータの視覚化で、水深数千メートルや、地下数百キロメートルの様子も把握できるようになったとはいえ、実際に目視し、サンプルを採取するのに優るものはないと思います。それでもまだ地上の風景のように、海底のありのままの姿を目にすることはできません。本当に果てしない海の深みを歩いているような気分です」

「君はどうして潜水艇のパイロットになったんだ?」

「俺は元々、航海士志望で商船学校に入学したんです。でも、特別研修でプロテウスを目にしてから、より深く知りたいと願うようになりました。ノックスさんこそ、どうして海洋科学を選んだんです?」

逆に彼が聞き返すと、ノックスは四角い顔をむず痒そうに緩め、
「そりゃあ、目の前に海があったからだよ。『あなたはどうして山に登るのですか? そこに山があるから』という理屈と同じだ。子供の頃、旅先で海底火山が噴火して、一夜で沿海に新島が現れた。みな、火星だ、彗星だと、外のことばかり気にするが、なんだ、この海のことだって、よく知りもしないんじゃないかと思ったよ。こんな巨大な海底噴火を予測することすらできず、日に日に成長する新島を見ながら、『これから一体、どうなるんでしょう』とか言ってる。世界の権威といわれる学者が机を並べて、ああでもない、こうでもないと、推論を建てるのが精一杯だ。そう思ったら、なんとなく海への興味が湧いて、理科大学の門をくぐっていた。それでも一生のうちに判ることなど、たかが知れている。海も学問も果てしないとしか言いようがない」

深海調査の実況開始:耐圧殻って狭いのね!

※ 調査の実況が始まり、相手役を務めるゾーイが潜水艇の内部について質問を投げかける。

やがてオンライン講義のモニターに、直径二メートルほどの球内に三人の男がきゅうきゅうとすし詰めになっている映像が映ると、ゾーイがすっとんきょうな声を上げた。

「ずいぶん狭いのね! これならスペースシャトルの脱出ポットの方がよっぽど快適に見えるわ」
「そうだよ。海中では十メートル深くなるごとに一気圧の圧力が加わるからね。フェリーみたいに大きな箱形の乗り物は設計できないんだ。それに、僅か数ミリの穴でも、ひとたび水が入り込んだら、深海ではレーザービームみたいに強烈な噴射になって、金属でも簡単に破壊してしまう。超合金を使った分厚い真球でないと、人間はとても深海に潜ることはできないんだよ」

「お手洗いや食事をする所はあるの」
「ないよ。潜航中は何時間もこの狭い耐圧殻に座りっぱなし、立って歩くこともできない」

「それは苦行だわ」
「慣れたらそうでもないよ。いったん潜ったら、観察やオペレーションに集中して、足の痛みも忘れてる。それぐらいエキサイティングな体験だ」

「冷暖房は付いてるの?」
「使える電力も限られているから、冷暖房もなしだ」

「室温はどれくらい?」
「深い海の底では水温と同じくらい。摂氏二、三度だよ」

「そんなにまでして潜航する意味があるの?」
「研究者なら自分の目で見たいと思うものだ。無人探査機でも鮮明な水中カメラの画像が得られるが、やはり視界の奥行きや質感において人間の目に勝るものはない。何かを感じ取る人間の勘と経験も侮れないものだよ」

早速、オンライン講義を視聴している小中高の生徒、大学生や専門学生からのコメントや質問が数多く寄せられた。

操船の安全面から「潜航中は全てのコメントに目を通すことはできないし、返答もできない」と前もって伝えているが、それでも小さな子供たちから

《海の中は青色じゃなくて、真っ暗なんだね》
《おしっこに行きたくなったら、どうするの?》
《あんなちっちゃなジョイスティックでプロペラを回すんだ。あれなら僕のゲームコントローラーの方がよっぽど難しいよ!》

等々、愛らしいコメントが寄せられると一つ一つに返事したくなる。

彼はタオの操船を見守りながら、出来る範囲で答えた。

「海の中ではどんな光も吸収されるから、強い照明を用いても、見える範囲はせいぜい十メートルぐらいなんだ」

「潜航中はトイレには行けないし、具合が悪くなっても途中で降りるわけに行かないから、前日から食事や水分を控えめにして、体調を万全に整えるんだよ」

「確かにシミュレーションゲームの方が操作が難しいものもあるかもしれないね。でも、海の中では周りの状況はほとんど分からないし、船の上からどれほど高性能なナビゲーションシステムを使っても、地形や海況や、その時々のコンディションによってプロテウスの現在位置を正確に拾えないこともある。うっかりすれば、大海原のど真ん中で行方不明になって、事故にならないとも限らないからね。スラスタの操作自体は簡単でも、とても緊張するよ。それに水の中では動作も緩慢で、前後左右の間隔も混乱することがあるからね」

《アステリアにこんな珍しい乗り物があるとは思わなかった》

「そう、多くの人は知らないだけで、二十年以上前から運航している。ローレンシア海域のティターン海台を詳しく調べる為にね。ところで、皆はローレンシア島とローランド島が一つの大きな海台の上に乗っていることを知ってるかい? 海台の上に乗っている――というよりは、海台の標高の高い部分が海面に突出して、二つの島を形成しているんだ。海面下ではどんな風になっているか、最新の3D海底地形図で見てみよう。──ほらね、二つの頂がラクダのこぶみたいに突き出して、島になっているのが解るだろう。ちなみに、海上に突出している面積はローレンシア島の方が小さいけど、高まりとしてはローレンシア島の方がはるかに大きいんだよ。君たちの身近で一番興味深い現象といえば、島の南東沖の『とんがり島』だね。あの島の南側は大きな一枚岩でできていて、最大干潮時には、島の周囲の水深が五〇センチまで浅くなり、大人なら三〇メートル先まで歩いて行くことができる。もちろん、あっという間に潮が満ちて、溺れる危険性があるから立ち入り禁止だけども、もし、すべての海水が干上がって、島の全容を一望できたら、あのとんがり島が水蒸気爆発で一気に形成された高まりだということがよく分かるよ」

深海の素晴らしい山脈:海底地形図から

※ 実況を見ている子供たちに海底地形図を表示。アステリアの深海に広がる絶景に目を見張る。

「そう、ライトに照らされて見える視界は十メートルぐらいだからね。野山を見渡すようにはいかないんだ。でも、この周囲がどうなっているか、海底地形図で見てみよう」

彼の方で管理画面を操作し、メテオラ海丘の3D地形図を呼び出した。

講義用の海底地形図は、情報保護の意味もあり、ルノーがわざと解像度を落としたカラフルなマップを用意してくれた。オリジナルは十センチ単位で地形の凹凸が描出されるが、こちらは一メートル単位に調整し、子供でも識別しやすいようにヴィヴィッドに着色し、高さに応じて七色に色付けしている。

一番深い所が青色、標高が上がるにつれ赤色に変わる。

画面いっぱいに、七色に色分けされた巨大な深海の山が映し出されると、モニターの向こうから生徒らの歓声が聞こえてくるようだ。

《すごいや! これ、本当にウェストフィリアの海底にあるの?》

「これは水深三〇〇〇メートルの海底にそびえるメテオラ海丘だ。南北八キロメートル、東西二六キロメートルに及ぶ巨大な深海の山だよ。何度か噴火を繰り返し、海底面が山のように盛り上がった。その後、多方向から引っ張られ、こんな歪なスライムみたいになったんだ。でも、このメテオラ海丘もアステリアに存在する無数の海山の一つに過ぎない。今、プロテウスが居るのはここ、南の麓に広がるマウンド群のど真ん中だ。なぜ、ここを調べることになったのか。それは、このマウンド群やメテオラ海丘が今も生きているからだよ」

《深海の山が生きている?》

「そう、君たちが呼吸して、食べたり、遊んだりするように、メテオラ海丘も何百万年という果てしない時間の中で生きている。伸びたり、膨らんだり、爆発したり。じゃあ、これからその証拠を見てみよう」

二回目の潜航で撮影したカルデラ底東部マウンドの熱水噴出孔のビデオを一分間流した。

「これ、何? 岩の隙間から温泉が湧いてるの?」
今度はゾーイが質問した。
「分かりやすく言えば、そうだ。海水は洗面器の水みたいに、ずっとそこに存在するわけじゃない。水深数千メートルの海底にも海流はあるし、水分も海底の堆積物や岩の隙間から徐々に地層に染みこんでいく。やがてそれは海底の深い所でマグマに熱せられて、時には数百度という高温で地表面に噴き出す。一〇〇度を超えても気化しないのは、深海が超水圧の世界だからだ。そういう特殊な環境下では、二〇〇度や三〇〇度といった高温のままで海水中に湧き出てくるんだよ。ちなみに、この映像は、メテオラ海丘のU字型火口にある火口丘の一つから湧き出ていたものだ。温度は一七〇度もある。冷たい水のように見えるけど、人間が手をかざしたら大火傷だ。それに、この熱水は高温なだけじゃない。地殻に含まれる金属成分をたっぷり溶かし込んだ、重金属スープみたいなものだよ。それが海水中に湧き出て、急激に冷やされると、孔の周りに金属の成分を沈殿させる。沈殿物の中には、君の大好きな金や銀、白金が含まれることもある。他にも、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛など、いろいろだ。まさに地殻の血液だ」

「海の底に金鉱があるの?!」

「いやいや、金鉱じゃなくて、通常よりも濃度の高い沈殿物だ。極端な喩えだが、金粉入りの噴水を何百万年と吹き続けたら、その周りにどんどん金が積もるだろう。それと同じだよ」

「じゃあ、それを掘れば大金持ちになれる?」

「そう簡単にはいかないよ。第一、どこにでも金の混ざった熱水噴出孔があるわけじゃないし、仮に金がたっぷり溜まった場所があったとしても、水深数千メートルの海の底だと掘り出しようがない。水深四〇〇〇メートルなんて山一つ分だ。その頂上からホースを垂らして、金だけを上手にポンプで吸い上げられると思うかい? 第一に、技術的に困難だ。第二にコストがかかり過ぎる。何百億と開発費を注ぎ込んで、それに見合うだけの採算が取れればいいが、そんなのは地上の鉱山業でも難しい。だから『存在する』と分かっても、そう簡単には回収できないんだよ」

「でも、海上のプラットフォームではニムロディウムを掘ってるわ」

「あれはね、また出来方が違うんだ。長い年月をかけて基礎岩の上に堆積した皮状(クラスト)のものを掘削機で剥がして、ポンプで回収しているんだよ。水深も三〇〇〇メートル以浅で、まだ操作しやすい。それに堆積物も地中の奥深くに潜り込んでないから調べやすいメリットもある」

「他は無理なの?」

「未来のことは誰にも分からないよ。今、これを見ている人が、いつかは水深数千メートルの海底から鉱物資源を採掘する方法を考えつくかもしれないし、海水から効率よく金属成分を回収する技術を開発するかもしれない。何だって考えてみる価値はある。今日無理だからといって、五年後も、十年後も『絶対に無理』など誰も言い切れないからね。それが今日、こういう形で実況している所以だよ」

続いて、ウェストフィリアの南側に連なるウェストフィリア海底山脈、そして北半球にネックレスのように広がる北冠状造山帯の海底地形図を示すと、ゾーイはますます驚嘆し、
「これ、本当にアステリアの海の底なの? まるで地上の山脈そのものじゃない」

「そうだよ。本当に凄いだろう。でも、この海底火山の連なりも、アステリアの海底のほんの一部だ。全海洋の大半が詳しい精査もされず、深い海の底に眠っている。本格的に調べれば、水深一万メートル以上の海溝があるかもしれないし、ニムロデ鉱山より遙かに大きい海底火山もあるかもしれない。他にも、氷の下の海底湖、メタンガスの噴き出す窪地、誰も見たことのないような海底下の大河やミクロの生物圏もあるかもしれないね」

「そういうのは観測衛星や無人航空機で形を捉えることはできないの?」

「ある程度は捕捉できるけど、正確さや精密さではやはり船や測深機を使ったデータに劣る。それに、水中では電波も使えないし、光もほとんど届かない。音波だけが頼りだから、地上の山の形を調べるようにはいかないんだよ。電波望遠鏡を使えば数百億光年離れた星の輝きも見えるけど、海の中は本当に手探りだ。分野によっては、無重力より超水圧をコントロールする方がはるかに難しい。だから、月の裏側に行けても、海の底はまだまだ未知の世界なんだよ」

「自分の足元が分からないというのは頼りないわね」

「だから、こうして働きかけている。広報には大変な時間と手間がかかるけど、全ては知ることから始まるからだ」

「今、その場所を調べているのは、熱水の湧いている所を探すため?」

「それもあるし、地形や地層が他と異なる箇所もある。無人機も使えなくはないが、ケーブル付きだと動ける範囲が限られる。自律型無人機も便利だが、臨機応変に動けない上、搭載できない調査機器もあるので、今日はプロテウスで見に来たんだよ」

「だけど、真っ暗で、ほとんど何も見えないわね」

「視界は一〇メートルぐらいだ。全力を出しても、人が歩くほどの速さしか出ない。だから本当に潜航して調べられる場所は限られている」

「それでも潜る価値があるわけね」

「そういうこと。たとえば、あそこに小高い丘みたいに盛り上がっている箇所があるだろう。表面の細かな凹凸、微かな海水の揺らぎ、堆積物の色や質感、形状などを、その場でじっくり観察することができる。馴れてくると、この先にガスが噴出している箇所があるんじゃないか、亀裂の周りが変色しているのではないか、いろんな勘が働くようになる。その場ですぐにビデオ撮影したり、堆積物をサンプリングしたり、さっきの場所に引き返したり、機敏さにおいても、人間の勘と経験の方がはるかに勝ることもある。ケーブルより深い海溝や、地形の複雑な場所など、無人機のキャパシティを越えた場所に行けるのも有人潜航ならではだ。どちらが優秀という話ではなく、それぞれに機能や役割が違うんだよ」

レゾン・デートル:名もない生き物にも生命がある

※ 上述の続き

「ここからは操縦が必要だから、カメラの目を通してマウンドの様子を観察しよう。堆積物の色や形状に注意しながら、ゆっくり斜面の周りを一回りする。プロテウスのように、船自体の重さで沈む潜水艇は、一度、錘を切り離して上昇を始めたら、再び潜航はできない。このマウンドも上方まで行ってみたいが、今、頂上まで行ってしまうと、二度と海底に戻れなくなるから、周囲の状況を考えて、慎重に航路を選ばないといけないんだ」

「なんだ、プロペラで浮いたり沈んだりするんじゃなかったの?」

「プロペラはあくまで左右の進路を調整するだけ、原子力潜水艦みたいに浮いたり潜ったりする馬力はないんだよ」

「案外、不便なのね」

「だから、海の探査はなかなか進まないんだ」

「それで、皆、海ではなく、月の向こう側に行ってしまったのね」

「魚の尾びれより鳥の翼の方が軽快に飛んでゆく所以だよ。なんにせよ、人間が生まれ育った世界を飛び出して、まったく別の世界に適応するのは大変なことだ。人間に限らず、鳥でも、魚でも、それぞれの身体に適した世界があって、その中で生きるよう遺伝子にプログラムされている。どんな生命もその星の土や水から作られていて、それらも含めて一つの大きな自然のシステムを成しているからだ。たとえば、大昔は鉱物資源の生成に微生物が関与しているなど考えもしなかっただろう。だが、今では、鉄や銅やマンガンなどの鉱床に微生物の生命活動が大きな影響を与えていることが解ってる。微生物が生きるために酸素や硫黄を消化する過程で、金属成分がいろんな形に変化し、やがては鉱床と呼ばれるほど濃縮されたものになるんだ。どれ一つ欠けても自然のシステムは成り立たない。名もないナノスケールの微生物にも役割があるんだよ

「『レゾンデートル』ってやつ?」

人間の世界でいえばそうだけど、そもそも存在に理由などないと俺は思ってる。だって、そうだろう? 魚に『存在理由(レゾンデートル)』なんて言葉が通じる? 理由など無くとも、ちゃんと生きてるじゃないか。すべての命は、ただ存在するだけで価値が有る。『生きる』ために、生きるんだ

「意味がよく解らないわ」

「それはね、深海の生き物を間近で見れば解る。どうして、こんな所に? というような所に、健気に生きている。何を食べているのか、どうやって繁殖するのか、まったく見当もつかないが、彼らには彼らの世界があり、生き方がある。未だ人間の目に触れず、名前もない生物もごまんといる。もし、彼らが『僕たちは何の為に生きているのだろう』と自らの存在を疑いだしたら、生きていかれないだろう。意味なんて、なくてもいい。『生きる』ために生きる、それが全てだ

「そんなこと言われても、私には解らない。世の中には、自分が存在すること自体、苦痛な人もいるわ。『生きる』ために生きるなんて、上等な生き方は私にできない」

「上等、下等の問題じゃない。自然でいいんだよ。現に君はここでオンライン講義のアシスタントを務め、おかげでたくさんの子供や学生が実況を見ることができる。今日という日に、君はこの場に居なければならなかった、それが『存在』というものだよ」

「私にも役割はある、というわけね。でも、それは外部に認識されて初めて、役割としての意味を持つのではないの?」

「他の誰かが認めなくても、自分で役割を見つけることはできるよ。それに役割があっても、なくても、生きていることに変わりないじゃないか」

「そうかもしれない。でも、人って、何かしら意味や役割を認めてもらえないと、辛くなったり、虚しくなったりするんじゃない?」

「意味があるから、役割があるから、愛されるわけじゃない。出目金は、出目金というだけで、十分に愛される存在じゃないか」

「でも、世の中の大半は、そんな風に考えられないものよ。出自や、器量や、成績や、周りと見比べては自信をなくし、自己嫌悪に陥ってしまう。愛なんて、それこそ遠い海の果て――泳いでも、泳いでも、見つからないような気がする」

「それは君が愛ってものを、えらく特別に考えているからだよ。周りをよくよく見渡せば、野の花みたいに、あちこちに咲いている」

「そうかしら」

いつか君にも分かるよ。生きていれば、きっと

パイロットは曲芸師じゃない

※ 深海調査が終わって、浮上する。

やがて上方から光が差し込み、人間の世界に戻ってきたことを実感する。さっきまで虫たちが棲まう水深三〇〇〇メートルの世界に居たのが夢のようだ。

覗き窓の向こうが泡立ち、イルカが勢いよく飛び跳ねるようにプロテウスが水面に姿を現すと、待機していたボートが接近し、船体上部にダイバーが乗り移って、クレーンの索を固定し始めた。ひとたび海面に浮上すると、水に浮いたボールのように耐圧殻も揺れ、ノックスも壁にもたれながら、「あー、この瞬間が嫌なんだ」と肩をすぼめる。それでも船外にダイバーの存在を感じると、得も言われぬ安堵感が広がる。主操縦席のタオも、緊張を一気に吐き出すように溜め息をついた。

「君も一つ一つの確認や操作が丁寧だから、いいパイロットになるよ」

「そうでしょうか」

「もちろんだ。俺たちは曲芸師じゃない。安全に、確実に、目標に導くのが仕事だ。次はもっとスムーズにやれるよ

Product Notes

謎の海丘群はこちらの論文を参考にしています。なんとなく面白そうだったので。

八代海南部の海底で発見された海丘群の潜水調査報告

2004年の9月から11月にかけ,八代海南部海域において第十管区海上保安本部所属の測量船「いそしお」によるマルチビーム測深機(SeaBat8101)を用いた沿岸測量が行われた.その結果,水俣市から西南西約10km,水深約30mの海域に直径約50m,比高約5mの海丘からなる海丘群が発見された。
伊藤弘志:海洋研究室
和志武尚弥,那須義訓:第十管区海上保安本部

海底地形図

海洋調査 データ 八代海 海丘群
八代海 謎の海丘群
海上保安庁海洋情報部海洋調査課

この海丘群は、第十管区海上保安本部所属の測量船「いそしお」による海底地形調査により、熊本県水俣市から西南西約10キロメートルの海域において発見されました。周辺は水深約30メートルの平坦な海底で、直径約50メートル、比高約5メートルのほぼ円形の海丘約80個が密集して存在しています。それぞれの海丘は、形や大きさがほぼ等しく、北西-南東方向に並ぶように配列しています。このように平坦な海底面に突如として存在している海丘群は、他の海域ではみられない非常に珍しい地形です。そこで、この海丘の実態を把握するため、鹿児島海上保安部所属の巡視船「さつま」(船長:日高睦男、総トン数:1200トン)と同船所属の潜水班による潜水調査を行いました。

「おにぎり」か「アポロチョコレート」みたいでカワイイ(*^^*)
八代海の海底にこんなユニークな地形があるって、御存知でした?

海洋調査 データ 八代海 海丘群

プチスポット火山の話題も面白かったです。

プチスポット火山とは (日本火山の会)

発見された場所は、北緯37度:東経150度周辺です。 ここは、およそ1億3500万年前の太古に中央海嶺で形成された、古くて冷たい太平洋プレートがしんしんと日本海溝へ沈み込みつつある場所です(図3)。 そのような場所で若い火山活動(5~103万年前)が確認されたということだけでも驚きです。
このような場所は、現在活動的な地殻変動(火山や断層な ど)は無いと思われていたので、今までほとんどの人が注目していませんでした。このような場所は、ただ深海泥がしんしんと降り積もり、リュウグウノツカイ や巨大イカといった深海生物が泳いでいだけだろう、と思われていましたから。

プチスポット火山

しんかい潜航で判明した深海底ストロンボリ式噴火とプチスポット火山の成因の解明

これらの火山は、これまで地球上でほとんど知られていなかった新しい成因の火山活動として認識されつつあり、現在も活動中の(可能性が高い)単成火山群である(Hirano et al., 2001; 2004; submitted; Yamamoto et al., 2003)。本海域は、白亜紀の古く冷たい海洋プレートが日本海溝や千島海溝へ沈み込みつつある「静」的な場所とされ、中央海嶺やリフトゾーン、沈み込み帯や造山帯、ホットスポットや洪水玄武岩といった地球科学分野の「動」的な場所に比べてあまり注目されてこなかった。しかし、この火山群の発見により、北西太平洋下の地質、テクトニクス、マントル構造が多方面の分野から注目されはじめている。

本研究の火山はプレート内火山でありながら、ホットスポットやマントル上昇流に代表される火山を否定し、浅部の枯渇マントルの微小部分溶融を述べている。つまり、マグマは枯渇マントルに相当するアセノスフェアの微小部分溶融の結果形成された可能性が高く、プレートの破壊に沿ったマグマの上昇が示唆される。火山の起因となったリソスフェアの破壊過程や、マグマの起源であるアセノスフェアのマントル論などが、新たな地球科学の展開として大いに期待される。

北西太平洋の新種火山「プチスポット」の総合調査:メルト生成場とマグマ噴出場の分布解明(リンク切れ)

北西太平洋の海底で発見された火山活動「プチスポット」は、既存の火山活動場、中央海嶺、島弧火山、ホ
ットスポットとは異なる様相を示している。その成因解明にむけて、地球物理学、岩石学、地球化学、数値モデ
リングなど様々な手法を用いた総合的な観測・観察・研究が進行している。

画像データ改ざんに関しては、こちらの資料が参考になると思います。
改ざん検知システムの開発

こちらも海洋調査の技術について、いろいろ紹介しています。必要なのは研究者だけじゃない、甲板で調査機器をオペレーションする人、データ解析をする人、調査船を運航する人、様々な職種の人が集まって、一つのミッションを完遂します。ドローンを飛ばせば、山の全容が観察できるのと大きく異なる所以です。

Ocean Network Canadaの海洋調査の模様
ROV Oceanic Explorer is recovered after connection multiple instruments to the S Node

Jackson, Meghan, and Xi observe a dive while collecting log data

Kindleストア

下巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

//drive.google.com/file/d/0B-RKK97iKB34ZXZpU2RkanhQT1U/

最終更新日: 2018年3月25日 初回公開日:2017.10.02

海洋小説『曙光』MORGENROOD

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海洋科学、鉱業、建築などをモチーフにした新感覚の人間ドラマ。『生の哲学』をテーマに人生、恋愛、仕事について描く長編小説です。Kindle Unlimitedなら読み放題。