2018/07/15 改訂版 「『あなたの悩み、分かるわ』詐欺に気を付けろ」「周りの人をカウンセラーにしない」「人生なんて相談しても仕方がないことが多い」

理念のフレームワーク デザインの基礎と社会への思いやり

理念のフレームワーク デザインの基礎と社会への思いやり

混沌とする社会情勢において、人々が求めるのは、心から共感できる指針です。シンプルで、親しみやすく、なおかつ希望のもてるスローガン。オリンピックや企業でも「こうありたい」という標語が掲げられますが、それは決してお飾りの理想ではなく、人々が一丸となって、大きな目標を達成する為の掛け声であり、戒めです。何の指針もない集団に一丸のパワーはありません。たとえ綺麗事でも、共通の標語を掲げるのは、意識の高揚を促すとともに、モラルを保つ為でもあると思います。

一方、社会の思想は、都市設計にも現れます。『公共の芸術としての建築と住民の人間形成 安藤忠雄の『連戦連敗』より』にも書いているように、「どう生きたいか(暮らしたいか)」という願いや目標は、都市の作り方にも反映されます。住宅地には人々の暮らしに適うデザインが、商業地には活性化を促すような工夫が盛り込まれるように、その基礎となるフレームワークには社会の意思が反映されます。大多数の幸福と発展を願うなら、そのフレームワークも、それにふさわしい精神の表れでなくてはなりません。言い換えれば、それは作り手の哲学や感性に依るところが大きいのです。

もちろん、理想だけで政はできませんし、清濁併せのむ余裕も必要でしょう。

だとしても、基礎となるフレームワークは理念を映し出すものであって欲しい。

歪んだ器に暮らせば、人もまた歪むのです。

このパートは海洋小説『曙光』(Kindle版)の抜粋です。
詳しくは作品詳細をご参照下さい。

概要

長い試練の時を経て、ヴァルターは息子のルークと水上ハウスに暮らし始める。一方、リズはEOS海洋開発財団の理事長として再び公の場に姿を現し、世間を驚かせる。新たなスタートを切った二人の目に映るのは、水上に暮らす人々の不安と、頼りになる導き手を失って混乱する社会の様相だった。

抜粋

※ アンビルト・アーキテクトの先鋭、オキタ社長に海洋都市『リング』のアイデアの是非を問う

「それで、そのリングをどうしたいの? アイデアコンペに応募するの?」

「そうじゃない。つまりその……実作と無関係でも、インパクトはあるものかな、と」

「どういうこと」

「実作できないデザインなんて絵空事だろ? たとえば、水深三〇〇〇メートルを高速で走るリニアカーなんて現実にはあり得ない。どう考えてもあり得ないものを『これが未来の交通の在り方です』と主張しても、誰が真剣に聞いてくれる? リングも絶対不可能なアイデアではない、だが、現実に建設するとなれば莫大な費用がかかるし、技術的にも困難だ。そんな絵空事を『アステリアの理想の未来です』と訴えたところで、どんな説得力があるのか。俺にはまるで自信がない。だから迷ってる」

すると、オキタは中国皇帝の落とし胤みたいな切れ長の目をきらりと彼に向け、
「あなた、デザインってものを完全に誤解してるわね。とりわけ、アンビルトのこと。そんな事を言い出したら、デザインなんてみな絵空事よ。一から十まで実用性だけ重視していたら、美も理念もみんな死ぬわよ

オキタは目の前のローテーブルをこんこんと叩くと、
「あなた、このテーブルをどう思う?」

「そうだね。透明感の高いガラスと、流線型の曲げ木のフレームがマッチして、オフィスにもリビングにも似合うと思う。だが、俺の家では使いたくない。ガラスが綺麗すぎて、かえって落ち着かないし、物を置く度にカチャカチャと音がして耳障りかも」

「そうじゃないの。どこにデザイナーの意匠を感じるかと聞いてるのよ

「デザイナーの意匠?」

「そうよ。こんなテーブル一つにも、必ずそれをデザインした人間がいる。人間が作るということは、必ずそこに意匠があるということよ。どんな環境を想定し、どんなユーザーを対象にデザインしたか。美観にこだわったか、実用性重視か、一般家庭向けか、オフィス向けか、人間の気配りは、形や色や材質に必ず現れるものよ。そして、あなたの言う通り、このテーブルはファミリー向けには作られていない。それなりにセンスのある一人暮らしの男が、テレビを見る時にビールやリモコンを置いたりするのに好むような色形よ。デザイナーもそれを意識してガラス天板と曲げ木フレームのラックスペースを十分にとっている。正直、もう数センチ隙間が狭い方が見た目にも綺麗なんだけど、何時間もテレビの前に座ってるような男は、モバイル端末だの、読みかけのメンズ雑誌だの、こういう所に置きたがるでしょう。だから、これだけのスペースを取ってるの。他にも、脚をハの字に配してまろみを醸し出している点や、脚の裏側にラバーストップを取り入れている点にも作り手の意匠を感じるでしょう。家具でも、建物でも、一つ一つ、注意深く見れば、デザインした人間のセンスやポリシーがはっきり見て取れる。突き詰めれば、デザインとは心の形そのものなのよ

「なるほど」

「あなたは自分のリングはつまらないと思ってる。でも、つまらないかどうかは、それを見た人が決めることよ。あなたが自分自身でジャッジすることじゃない。そしてね、椅子やテーブルみたいに実用性重視のデザインならともかく、イベントのポスターや会社のロゴマークみたいに、メッセージ性が問われる絵に関しては、作り手の精神性が何よりも大事。もちろん色形も重要な要素だけども、そんなものは後からいくらでも修正を加えることができる。肝心なのは基礎となるワイヤーフレーム。つまり、あなたの心象よ

都市をデザインする

※ 赤ん坊のルークを連れて散歩しながら、未来の都市設計について考察する

その日も午後のミルクを飲ませると、うとうとし始めたルークをベビーカーに乗せ、海岸の遊歩道に散歩に出かけた。
ベビーカーはフラットにも対面式にもなるバギータイプの三輪カーだ。サスペンションの効いた大型タイヤが使われ、砂浜の自然道も難なく進むことができる。

しかし、住宅街に入ると、道路の段差や陥没、公共施設の階段、歩道を塞ぐ駐車など、ベビーカーの負担になるものは多い。まるで町中で障害物競走をしているが如くだ。
今まで当たり前のように目にしてきた風景も、よくよく見渡せば、「健康な大人」を対象に設計されており、幼子や高齢者、身体的ハンディのある人には決してやさしくない。

《デザイン》

それは作り手の哲学や美意識の具現化だとジュン・オキタ社長は言った。

リビングに飾る絵画や陶器ならともかく、人間の暮らしの土台となる『都市』を設計するには、美観や独創性だけでなく、様々な住人のライフスタイルを考慮する必要がある。加えて、安全性、経済性、耐久性、芸術性、等々。
階段や道路一つとっても、そこには作り手の気配りや創意工夫が如実に表れる。

《意思が町を作る》

どんな小さなものでも、形あるものは、すべて人間の意思の現れだ

頑丈に作られた堤防が数百年の長きに渡って干拓地を守るように、配慮の行き届いた町は幸福の土台となる。どんな形も決して偶然ではなく、そこには必ず作る人間の意思が働いている

親しみやすい社会のスローガン

※ 国際海洋政策シンポジウムに参加するにあたり、リズは今後の指針を語る

国際海洋政策シンポジウムは、十一月四日から七日にかけて、ポートプレミエルのコンベンションセンターで開催される。実質的な運営はシンポジウム実行委員会が手掛けているが、EOSも様々なイベントに協賛している為、連日、打ち合わせや展示物の準備に忙しい。とりわけ「海を知り、海に親しむ」をスローガンにした一般向けのイベントは、産業、科学技術、娯楽、芸術など多岐にわたるため、仕事量も半端ない。

EOSが参画するのは三つのイベントだ。

一つは「海の写真展とコンテスト」。アステリアで活動するプロのカメラマンが撮影した写真やビデオをスカイタワーのエキシビションホールで展示すると共に、一般参加のコンテストを開催し、アステリアの海の風景に親しんでもらう。

二つ目は「海洋開発の歩み」。アステリアの発見から現在に至るまでの道程を模型やCGアニメ、パネル写真などを用いて紹介するもので、これまでにない規模とクオリティが注目を集めている。PRビデオも大手の製作会社に依頼し、コンベンションセンターの3Dシアターで上映する予定だ。

三つ目は「海洋大学のPR」。総合大学の設立は、父がローレル・インスティテュートの設立に奔走した頃からの最大の目標だ。今はまだトリヴィアの文化教育省やアステリアの教育担当が構想を練っている段階で、実現にはまだ三、四年かかりそうだが、各界からの期待も高く、もしかしたら予想より早く設立に漕ぎ着けるかもしれない。シンポジウムではコンベンションセンターの一角に特別ブースを設け、理解と支援を訴える予定だ。

<中略>

「それで、One Heart, One Oceanが、どうしてアステリア共通の認識になりつつあるんです?」

「今月末から月に一度、ローレル・インスティテュートのオンライン講義を利用して海洋関連の講義をするそうよ。そのタイトルがOne Heart, One Oceanなの。採鉱プラットフォームや海洋情報ネットワーク、ウェストフィリア海洋調査などの話をするのですって。ダグやガーフも協力してくれるみたい。彼のことはウェストフィリア実況を通じて記憶している人も少なからずあるから、講義への期待もあるみたい。One Heart, One Oceanが社会全体の認識になりつつあるというのは、若い人を中心にキャッチフレーズに使う動きが広がっているからよ。先日は、ローレンシア島のシーサイドパレスで催された野外コンサートでOne Heart, One Oceanがテーマに掲げられたそう。あの晩、パール・プリンセス号のアニバーサリー・ケーキにOne Heart, One Oceanと綴ったケーキ職人も、ここまでブームになるとは夢にも思わなかったでしょうね」

「でも、それだけでは収益には結びつかないでしょう。One Heart, One Oceanの文言だって、あの人に著作権や使用権があるわけじゃない。とても『事業』と呼べるようなものとは思いませんけど」

最初から完成された事業などありはしないわ。用意周到に臨んだからといって、必ずしも計画通りに収益が上がるわけではないし。思い立ったら即日で、実行しながら身につく知恵やスキルもあるはずよ。それに、オンライン講義やパイロットの教育を手助けするのに、どれほどの資本が必要だというの? 失敗したところで、何億もの負債を抱えて倒産するわけじゃない。何もしないで亀みたいにすっこんでいるより上等よ

「だからといって、海洋政策シンポジウムのキャッチフレーズにOne Heart, One Oceanを使うことはないでしょう。見る人が見れば、すぐに出所が知れますよ。あなたと彼の繋がりも」

「そうかもしれない。でも、そうせずにいないの。One Heart, One Oceanの理念を根付かせる為にも。だって、今のアステリアに、我が身を捨てても社会に尽くそうという人がどれほど居るというの。何をどう叫んでも、あの人は孤立無援。せめて運の風は吹かせたい

「運の風なら、あなたにも必要ですよ。産業省からの返信を見ましたか? 経済特区管理委員を公選したいという有志の要望が再度却下されましたよ。トリヴィア政府にアステリアの自治権を拡張する気はないし、住民代表による立法会議を許可する気もない。あくまで属領として管理し続けるつもりです。その方が企業も参入がしやすいですからね」

「そして同じ慣習を繰り返すのよ。一握りの強者が全てを牛耳り、新参者はチャレンジする余地も与えられない。固定化された社会は絶望と無気力をもたらし、新しい物を生み出す意力も削がれてしまうのよ。私はね、そこまでステータスや自治権にこだわっている訳ではないの。今まで通り、誰もが起業や成長のチャンスを得る土壌が保たれるなら、属領として存続するのも一つの方策でしょう。属領であればトリヴィアの経済的支援も受けられるし、区政も余計な業務や責任を抱え込まずに済む。だけども、先だってのメアリポート造船会社の合併みたいに、大が小を呑み込み、独自の技術も、創意工夫も、大資本に奪われる流れになれば、結局はトリヴィアの二の舞になってしまう。せっかく新たな可能性を信じて、真面目に奮闘してきた人が馬鹿を見て、資本でも政治力でも勝る会社が全てを牛耳るなら、何の為に父が産業振興や学校教育に粉骨してきたか分からない。もちろん、アステリアが独立市(シティ)となり、住民代表の立法会議が可能になったからといって、必ずしも先々の平等や繁栄が約束されるわけではないけれど、トリヴィアの既存勢力がそのまま流れ込むより、少しでも自らの意思が反映される方が、区民の自覚や連帯感も異なるわ。アステリアは断じて『トリヴィアの一部』ではない。そうでしょう?」

「でも、いずれ頭打ちになる社会ですよ。あんな小さな島に住める人の数も限られている」

「ええ、分かってる。だから一つの対案を示したいの。その為のリング・プロジェクトよ」

ずさんな水上ハウスの管理

※ 幼いルークと水上ハウスに暮らすヴァルターは向かいのハウスの外付けランプの水漏れに気付く

二度目の水漏れに気付いたのは、それから四日後のことだ。

朝方に一雨あり、昼過ぎに外灯の様子を見に行くと、やはりガラス張りのウォールランプの底に一センチほど水が溜まり、底面からぽつぽつと漏れ出している。
彼はその様子を携帯カメラで撮影すると、マックスにメールで転送した。マックスの見立ても「ランプの浸水」だった。

彼は再び周囲の住人を訪ね、なんとかハウスのオーナーと連絡がつかないか尋ねた。
が、やはり誰一人、住人の名前も連絡先も知らない。

「そんなに重要な問題かい? どうせほとんど住んでないんだ、放っておけばいいじゃないか」
と面倒そうに押し返す者もある。

しかし、ランプの内側に水が溜まれば電気がショートし、火災の原因になる。
住人が留守の間、ハウス内の電源が完全にオフになっているわけではなく、入り口やテラスのセキュリティシステムが常時作動していること、半分水面下にある地下ユーティリティルームで換気や排水の設備が運転していること、屋根やテラスに設置された自動スプリンクラーが定期的に散水していることなどから、ずっと通電しているのは確かだ。

彼は何とか水上ハウスのオーナーと連絡が取れないか、サマーヴィルの生活総合カウンターとポートプレミエルの区政センターに問い合わせたが、事故や事件でもない限り、個々のトラブルには対応できないという。

週が明けると、マックスの紹介で、水上ハウスを建造しているメーカーの担当者と話す機会を得た。そこで知ったのは、水上ハウスの建材は元より、固定杭、電気、ガス、上下水など、全てにおいて明確な規定が無く、購入者の希望に応じてインストールしているという事実だ。

「それじゃ、電線や配管の品質をよく調べもせず使用しているのか?」
彼が気色ばむと、
「そういう訳ではありません」
担当者は強く否定した。

「当社で使用している建材や電気設備は全て品質検査を通過したものばかりです。ただ、その基準がトリヴィアで定められたものなので、アステリアの海洋環境でも通用するのか、百パーセント確かなことは言えないだけです」

「つまり、水上コロニーの環境に則した建材や設備を使ってない、という訳だな」

「仰りたいことはよく分かります。しかし、今のところ目立った問題もありませんし、品質検査も厳しい基準値が設けられています。少なくとも当社で使用している建材や設備に不良品はありません」

今まで問題がなかったから、この先も問題が無いと、どうして言い切れる? サマーヴィルの沿岸に水上ハウスが建造されるようになってから七年以上が経過している。どんな丈夫な鋼材も大なり小なり腐食するものだ。いくらトリヴィアの品質検査で太鼓判を押された製品でも、アステリアの海水には耐性が弱いかもしれない。ろくに調べもせずに、よくそんな無責任な工事ができるものだ

「では、そのようにトリヴィア政府に進言して下さい。当社は政府の定めた法規に基づいて水上ハウスを建造しています。違法行為は一切行っておりません」

担当者はそれ以上の追及をぴしゃりと遮った。

水上ハウスと住民の不安:社会の為に何ができるか

水上ハウスの安全点検を求める署名を集める過程で

「こんばんは。突然、お邪魔してすみません。向かいのやり取りが遠目に見えたものですから」

白髪の主人が丁寧に挨拶すると、彼は老夫婦を中に通し、キッチンのダイニングチェアをすすめた。
老夫婦は隣のブロック、問題のハウスの真向かいに住んでいた。桟橋は別だが、ハウスは六メートルほどしか離れておらず、向かいの家の様子もよく見えるという。さっき訪ねた時、留守だったのは、夫婦で買い物に出掛けていたからだ。

「署名を集めておられるのですか」
白髪の夫が切り出すと、彼はさっき配るはずだった書面を見せ、
「あの大きな水上ハウスのウォールランプが浸水してショートの危険性があります。それだけではありません。ここに設置されている水上ハウスの大半がトリヴィアから輸入された建材や部品で造られています。でも、それらは必ずしもアステリアの海洋環境を考慮したものではありません。今に腐食や老朽化により様々な問題を引き起こすのではないかと案じているのです

「それなら、わたしたち夫婦も数年前から危惧している。わたしは長年、メアリポートの造船所で働いてきた。海洋構造物のことなら一通り知識はあるつもりだ。あなたの仰るように、水上ハウスで使われている建築資材はトリヴィアのモバイルハウス向けに作られたもので、海水中での耐性は十分に検証されていない。十年後、二十年後、どのような影響を受けるか、誰も知らないし、調べてないのが実情だ。些細なことが引き金で事故が起きても不思議はない。だから、わたしは自分で定期的に点検して、部品を取り替えたり、シールド材で補強している。でも、何も知らない人は、腐食や漏電の危険性など想像もつかないだろう

「その通りです。品質は保証されているからと安心しきっているし、区政も本腰を入れて調査や指導を行おうとしない。水上コロニーに関しては、まったくの無法地帯です」

「あなたは向かいの水上ハウスを懸念しているのだろう。わたし達もだ。あの家は五年前に建造されたが、オーナーは別に居を構えていて、ここには数ヶ月に一度、気晴らしに来る程度だ。周りの住民も、名前はおろか、顔もろくに知らない。君にさっき突っかかっていた住人さえもね。問題はあのハウスが何ヶ月も放置されて、事故が起きても誰にも気付かれないことだ。ウォールランプだけじゃない。ユーティリティルームにも怪しい点がある」

「大半が水面下にある最下層の部屋ですね」

「住人が泊まりに来る時、たまに上部のガラス窓から明かりが漏れて、ユーティリティルームを見渡せることがある。電気湯沸かしや分電盤の周囲に段ボールの空き箱やバーベキューセット、化学洗剤の容器などが無造作に置かれて、とても危険だ。何も考えず、物置みたいに使っている」

「一度でも先方に注意を促されたことがありますか?」

すると老夫婦は顔を見合わせ、
「なんだか、話をするのも躊躇われて……」
白髪の夫人が皺だらけの顔に不安の色を浮かべた。

「どこで何をしている人か、まったく分かりませんし、名前も存じませんもの。遠目に家の中を覗いていると分かれば、逆恨みされかねないでしょう」

「解ります。思うに、あの家の人は裕福ですよね。外装にもお金をかけているし、高級ガーデン家具の置かれたオープンテラスを見ただけでも内部の豪華さが窺い知れます。それだけに警戒心も人一倍ではないでしょうか」

「その通りだよ。留守中もずっとセキュリティシステムが作動している。外灯だけでなく、テラス、リビング、二階の居室、いろんな場所で、監視カメラの赤いランプが常時点灯している。時には二階のバスルームの自動空調機が作動し、換気窓が開くこともある。ということは、あの家はずっと通電しているんだよ。セキュリティだけでなく、冷蔵庫、AVセット、排水システムなど、全て電源を入れっぱなしで留守にしているんだ。そのことを、わたしと家内はずっと心配しているんだよ

「やはり、そうですか。俺もそれが気になっているんです。ずっと通電しているなら、どこが火種になってもおかしくない

「おまけに、あの家は少しずつ沈下している。杭で固定しているが、多分、重みに耐えられないのだと思う。杭の打ち方が悪いのか、建材に問題があるのか、わたしには見当も付かないが」

「本当ですか?」

「以前、ユーティリティルームの上部のガラス窓は水面から五十センチ以上の高さにあった。一番左端の窓の下には、漆喰を塗る時に出来た丸い凹みがあって、家内と『ネコの足跡みたいだね』と話していた。だが、その凹みも今は海面下だ。年に二センチほどだが、徐々に沈んでいるんだよ」

「住人は気付いてないのですか」

気付いているなら一日も早く手を打つだろう。だが、そんな動きは一向にない。あるいは、気付いていながら放置しているのか。ともかく問題なのは確かだよ。区政も住民に対して何の注意もしないからね

「しかし、住民が一致団結すれば、区政も動いてくれるのではないですか」

「そう、その為にここに来たんだよ。わたしと家内だけではとても太刀打ちできないし、年寄りというだけで相手に見下されることもある。もし、あなたが動いて下さるなら、喜んで署名に協力させてもらうよ」

Product Notes

こちらは、未来のGreen House。野菜工場と住居が一体となったユニークな構想です。こんなのも非現実的といえばそうですが、別の形で活用することはできます。実用的かつ、美麗で、エコロジカル。絵や動画で、その理念は十分に伝わりますね。

こちらはフランスのパリで構想されている、Smart City。実際に建設されたら「虫」とか「枯れ葉」凄そうな気もするのですが、アイデアとしては面白い。

このように、人は何を構想してもいいし、何を表現してもいい。
要は、どこまで説得力があり、公共性があるか。
個々の必要性に応じた配慮があるか、ですね。

作中に登場する、『コウテイペンギンの子育て』はこの通り。身を寄せ合って巨大なコロニーを形成し、南極のブリザードも耐え抜きます。

メスは遠い海まで餌となる魚を捕りに出掛け、お腹の中にたっぷり蓄え、赤ちゃんペンギンに与えます。いろんな子育ての形があります。

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閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

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最終更新日: 2018年3月26日 初回公開日:2017.10.06

海洋小説『曙光』MORGENROOD

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