2018/07/15 改訂版 「『あなたの悩み、分かるわ』詐欺に気を付けろ」「周りの人をカウンセラーにしない」「人生なんて相談しても仕方がないことが多い」

ベートーヴェンのCDはシンフォニーホールで売れ – 未来の顧客は『沈黙の層』にあり –

ベートーヴェンのCDはシンフォニーホールで売れ – 未来の顧客は『沈黙の層』にあり –

あなたは『ネット民』を知っていますか?

近年、企業が自社の目玉製品や新サービスをプロモートするにあたって、SNS(ソーシャルネット・ワーキング・サービス)の活用は欠かせないものとなっています。
Twitter、Facebook、Instagram、YouTube、社長ブログ、etc。
会社情報を見れば、SNSの公式アカウントがずらずら並び、年配の方であれば、世代感覚の違いや今時の自己PRの手法に愕然とするかもしれません。
しかしながら、SNSも、ブログも、アカウントを開設して、見映えのいいものを発信すれば、即、売り上げに繋がるような甘いものではありません。それが通用するのは、既に全国区で名の知れた企業や有名人だけです。多くのネット民にとっては、見知らぬ商店が手作りパンの写真をアップしようが、手先の器用な幼稚園児ママが自作のマスコットをPRしようが、「あんた、誰?」。一瞬、「わあ、可愛い」と思っても、次の瞬間には忘れてしまう。それほどに気まぐれで、耐性がありません。スマホの小さな画面を惰性でスクロールし、その時々の苦痛や退屈を紛らわせてくれる何かを探す『情報プレデター』です。彼らは次々に流れてくるコンテンツを無限に消費するだけで、そこから二次的に作り出すことはありません。心の空腹が満たされたら、はい次。絶え間なく情報を食い尽くす捕食者であり、それをファンと勘違いすると、コンテンツを食われるだけ食われて、こちらには何も残らない……という事態になりかねないのです。

そもそも『ネット民』とは何か。

日常的にインターネットを使いこなしながらも、その実体を理解してない人も少なくないのではないでしょうか。
現代は、カフェでも電車でも、誰もがスマホ片手に画面に見入っています。TVは見なくても、お気に入りのアカウントやニュースサイトは欠かさずチェックする人が大半ではないでしょうか。
だからといって、皆が同じ動機、同等のスキルで、同じように話題のコンテンツを楽しんでいると思ったら大間違いです。あなたが『トレンド』と思っているものも、その他大勢にとっては、存在すら知らない異次元でしかありません。

たとえば、最近、ネットでは平昌五輪の会場に設置された謎の彫像『モルゲッソヨ』が話題になりました。早速、ユニークなアスキーアートやクソコラが作られ、私もずいぶん笑わせてもらったものです。
しかし、同じように冬期オリンピック中継を観ていても、そんなネタが話題になっていることさえ知らない層が大半でしょう。オリンピック関連はTVのみで、SNSなど見ない人も大勢います。
その温度差を理解せず、「そうか、今はモルゲッソヨがトレンドなんだ!」と思い込み、モルゲッソヨ饅頭1000箱を用意して店頭に並べても売れません。こんなに盛り上がっているのに何故? と、あなたは首をひねるでしょうが、ネットはそういう場所です。誰もが知っているようで、意外と知らない人が多い。自分が見ないチャンネル(サイトやアカウント)は全く未知の世界というのが、ネットの本質なんですね。
こうした見込み違いは、あらゆるジャンルに共通します。「いいね」を1万個獲得しても、それは単なるフィーリングの話であり、購買意欲やファン魂とはまったく質の異なるものです。いいねやフォロワーの数、ブログのプレビュー数など、目に見える数値を過信して皮算用すると、モルゲッソヨ饅頭が売れ残る羽目になるのです。

そもそも、ネット民というのは、基本、自分の興味のあるコンテンツしか見ません。

世界に十数億のウェブサイトが存在しても、それを片っ端から閲覧して、科学、文芸、経営、福祉、あらゆるジャンルの知を蓄積する人など稀でしょう。ネット民が日常的にチェックするアカウントやウェブサイトはたいてい決まっていて、それが他分野にスライドすることは滅多にありません。恋の行方が気になる人は恋愛コンテンツばかり、育児中の人は子育て情報にどっぷり、小説好きでもライトノベル派はラノベ系サイトしか見ない、恐ろしく情報の偏ったプールで、自分と価値観の合う人とだけ交流するのが現状です。ネットユーザーが数千万人存在しても、彼らは個々に孤立したハニカム構造の住人であり、一つのコミュニティで永続的・積極的に活動している人など、たかが知れているのです。

またネット通を自称する人でさえ、メインストリームの外側にあるものを全く知らなかったりします。あまりにもネットの主流にどっぷり浸かりすぎているが為に、「ネットに興味がない層」「ITやPCに全く無知な層」に対する想像力がなく、自分が日常的に目にしている情報が世界のトレンドと思い込み、その外側にいる(もしかしたら大多数の)層を取りこぼしてしまうのです。

慣れた人は、ネット網は世界中に浅く広く浸透しているような錯覚をしますが、現実に起きているのは、使う層と使わない層、熟知した層と無知な層の、埋めがたい分断です。国営放送しか見ないお父さんも、歌謡番組に夢中なティーンも、火曜サスペンスが大好きお母さんも、『亭主元気で、留守がいい[ 1980年に放送された金鳥『タンスにゴン』のCM。熟年夫婦のしらけた関係と主婦の本音を代弁する台詞として全国的話題になった。]』のキャッチコピーを知っている時代と異なり、スキル、価値観、それぞれに違う異次元を生きています。話題のネタも、縦に浸透することはあっても、横に広がっていくことはありません。広がっているように見えて、その実、一つのハニカムの中でぐるぐる回っているのが現状なのです。

それに加えて、ネット民は気まぐれです。10万人が話題にしているからといって、誰もが心底興味をもっているわけではありません。単なる暇つぶしや野次馬が大半だったりします。それも一瞬で過ぎ去る熱狂であり、彼らにとっては、他人が手間暇かけたコンテンツも、退屈を紛らわせるネタでしかないのです。それをファン魂と勘違いし、せっせと提供する側に回れば、情報プレデターに骨までしゃぶられて終わりです。

何事も話半分に受け取り、褒められても、好意を寄せられても、過剰に期待しない。それがネット民と上手く付き合うコツであり、長く生き残る秘訣です。

未来の顧客は『沈黙の層』にあり

ところで、あなたは、自分の好きな漫画家にファンレターを書いたことがありますか?
いつも訪れる美容院のFacebookにいいね!したことがあるでしょうか。
多分、そんなアクションは起こしたことがない、自分の好意を伝えたいとも思わない。でも、その漫画家が大好きで、十年以上も愛読している、もしくは美容院に通い続けている、そんな人が大半ではないでしょうか。
ネット民もそれに似たところがあります。
好感をもったら、誰もがその場で「いいね」をクリックし、フォローするわけではありません。中には、「いいね」もしないし、フォローもしない(SNSアカウントを有していても)。でも、そのサイトやアカウントが好きで、何年も繰り返し訪問しているようなステルス・ファンも数多く存在します。
私はそれを『沈黙の層』と呼んでいます。通常サイレント・マジョリティとかいうのでしょうが、ネットに関しては、自分の足跡を残さず、繋がりも持たず、黙って見ているのが好きな人も多いので、ここでは『沈黙の層』として解説します。

SNSやサイトを用いたプロモーションの場合、やはり気になるのは、フォロワー数やプレビュー数ですね。いいねやフォロワーの数が多ければ多いほど、関心をもたれている証ですし、サイトのプレビュー数も大きな指針となります。

しかし、その数値が好意や購買意欲を如実に物語っているかといえば、決してそうではありません。フォロワーの中には野次馬、暇つぶしも大勢いますし、相互フォローが目的で繋がっている人もたくさんいます。フォローするだけで、タイムラインからは外し、実際にはフォロー中のアカウントの一割ぐらいしか見ない人もあるでしょう。

一方、フォローやいいねはしないが、RSSフィーダーやブラウザのお気に入り機能を使って、毎日訪問するような『姿なきファン』も確実に存在します。彼らの影も形もこちらには一切見えませんが、沈黙の中で、アカウントの行方を見守っています。もしかしたら、その思いは、フォロワーの取り巻きより強いかもしれません。
彼らはまた繋がりを持たないので、失望すると、速やかに離れます。失言があっても、仲間同士、笑って許す関係ではないので、見る目もシビアだし、嘘や虚栄にも敏感です。芸能人が失態を演じた時、まさかの反発を食らうのは、目に見える声援や動員数が全てと思い込み、沈黙の層の好意と評価を甘く見積もっていたからでしょう。

目に見えるアクションを起こす人だけが本物のファンではありません。

沈黙の層にもファンは大勢いますし、彼らは未来の購買層でもあります。遠慮やポリシーから繋がりを持たないだけで、何かのきっかけでポチっと購入ボタンをクリックすることもあります。
沈黙の層の期待や好意は決して数値に出ませんが、確かに人気の一部を支えているのです。

ベートーヴェンのCDはシンフォニーホールで売れ

「フォロワーが10万人いるのに、思ったほど売れない」という声を聞いたことはありませんか。
逆に、フォロワーやアクセス数は少ないのに、着実に結果を出している商品やサービスもあります。
これも、実際に財布を開く層とネットユーザーが乖離している為に起こります。
効果的にPRしたければ、それに興味を持つ層に確実にリーチしなければなりません。

大勢が集まってくるからと、AKBのコンサート会場でベートーヴェンのCDのプロモーションをやっても売れないでしょう。それなら、100人規模のミニコンサートでも、弦楽四重奏の会場で宣伝した方が売れる確率ははるかに高いです。数値が多いからといって、必ずしも効果が出るとは限らないのです。

たとえば、『月間プレビュー数が100万超え』といっても、その中身は、川の流れのように変化しています。恋愛コンテンツに夢中の女性も、結婚して出産すれば育児情報にシフトするし、50代に突入すれば高血圧のサイトを見るようになります。同じ子持ちでも、幼児の親と中学生をもつ親では関心も全く異なりますし、ここ数年、熱心なリピーターも、環境の変化を機に別種のコンテンツに移っていきます。それと入れ替わるように、新しい価値観をもった新規ユーザーが流入してくる。数値的には大きな変化はなくとも、ほんの数年で、中身がすっかり入れ替わってしまうのがネットの特色です(ジャンルにもよりますが)。数値は数値であって、人の興味の移り変わりまで弾き出してはくれません。データでしか事象を読み取れない人は、そこを履き違えて、空振りに終わるのだと思います。

商品もサービスも、どこに向けて、何を発信するかで、印象も大きく異なります。流行に合わせて萌え絵を使ったり、若者向けの言葉使いをしても、商品やサービスの本質から大きくかけ離れれば、かえってマイナスに傾くこともあります。『ベートーヴェンのCDはシンフォニーホールで売れ』。たとえ、シンフォニーホールの観客動員数がアリーナ会場の十分の一であっても、商品には、その商品にふさわしい購買層があり、プロモーションの仕方があるのです。
実際、SNSの波及効果に期待して、面白おかしくプロモーションを仕掛けても、蓋を開けてみれば、主力の購買層はネットとは完全無縁の高齢層だったりします。それも婦人会や経済団体の横繋がりで、ネットで話題にしている層が実際には買わないなんてこともザラです。
そこを見誤り、ベートーヴェンのCDジャケットに萌え絵を使うような事をするから、長年のファンに「おたくの会社は何をやっているのか」と呆れられ、本物の購買層を失うことになるのです。

終わりに

どの分野もそうですが、ネットも、何年、何十年単位の推移を見ないことには、本質が理解できません。とりわけSNSは「ここ数年で始めた」という人も多く、ネット民の奇々怪々な習性について熟知する機会も僅少かと思います。なぜならSNSで知り得るのは『ほんの上澄み』であり、ネット民の行動は、いつ、どんな検索語でアクセスし、どういう記事に反応して、何ぺーじぐらい見ていくか、男女比率やデバイスの種類は何かといったことを詳しく解析しないと分からないし、パクリやリライト、詐欺の手口なども、かなりマニアックな調査をしないと、普通一般のSNSユーザーにはネットの水面下で起きていることなど想像もつかないと思います。

また、見ず知らずのネット民と何百通もの生々しいメールをやり取りして初めて、誤読や曲解の凄まじさを思い知ることもあります。
そうした経験もなく、「効果があるから」という評判だけで、あれもこれもアカウントを開設しても、徒労に終わるのが関の山です。調子に乗れば炎上し、製品イメージを損なうばかりか、本来のファンや未来の購買層を失う結果になるでしょう。

様々なノウハウが氾濫する中、第一に考えて欲しいのは、「誰に向けて、何をアピールしたいか」です。ベートーヴェンのCDには、ベートーヴェンの音楽にふさわしいプロモーションの仕方があります。ネットで目に見えるアクションを起こすのは少数かもしれませんが、顧客の期待に応えれば、彼らは確実に財布の口を開き、長年のファンになってくれるのです。

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初回公開日:2018.05.19

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